複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て…… ( No.95 )
日時: 2011/06/28 23:05
名前: コーダ (ID: kcbGQI7b)

「佳恵、どうして止めるんだ!?」
「用心棒の手合わせは、刀を手放した時点で負け……ですわよ?」

 楓は腑に落ちない感じで、佳恵に言ったが、なぜか用心棒のルールを言って納得させようとする。
 すると「確かにな……。」と、東牙は月刀を鞘に戻した。

「うぅ……なんか納得できないな……。」
「うふふ、なら今度は、わたくしと手合わせしましょうか?」

 尻尾をぶんぶん振りまわしながら、やはり満足いかない様子で言う楓。
 すると佳恵は、雪刀を鞘から抜き、笑いながら手合わせをお願いする。
 もちろん楓は「頼む!」と、花刀を構えて佳恵に言った。

「さて、なら俺は審判でもやるか……両者、正々堂々戦うように……いざ尋常に……」
「勝負ですわ!」
「勝負!」

 東牙の合図により、2人はお互いの懐を目指しすっと動く。
 相手の位置へ行くのは、けっこう時間はかかるが、今はお互いぶつかり合うようになっているので、距離は半分で済む。
 だからこそ構えを大切にしないと、一気にやられる可能性はある。
 ガキン、雪刀と花刀がぶつかり合う音が響き渡る。

「うっ……。」

 佳恵は楓の力強さに、2mくらい後ろへ跳ばされ、そのまま地面に背中からぶつける。

「刀は離さなかったのか……。」

 倒れている佳恵は、用心棒の命と言っても過言ではない刀をしっかり握りしめていた。
 この根性に、楓の眼光はより獣らしくなる。

「うふふっ……楓さんは、少々強引ですわね……。」

 佳恵は、よろよろとその場で立ち上がり、決して苦しそうな表情をせず、むしろ、笑顔で、楓にそう言う。
 この姿に、東牙と楓は背筋をゾクっとさせる。

「その表情……なんなんだ!?」

 楓は、そう言って突然、神社の屋根の上へ跳んで行く。
 高さはだいたい5mくらいはあったが、獣人にとっては、ハードル競走並みにたやすいことである。
 カタッ、瓦の屋根の上に着地して、花刀を右手で持ちながら堂々と立つ楓。
 佳恵も、楓が立っている場所を凝視する。
 キンッ、2人が見つめ合って10秒くらい経った後、楓は右手に持っていた花刀を両手で持つ。

 ————————————ドゴン!

 突然、佳恵の3歩後ろくらいにあった地面が、凹んだという。
 一瞬の出来事に、東牙は頭を混乱させる。
 すると「うふふっ……力だけが……刀ではありませんわよ?」と佳恵はなぜか首を後ろへ振り向かせながら言う。

「くっ……あの速さを見切っただと……!?」

 どうやら、屋根の上に居た楓は、佳恵に向かって突進するかのような勢いで、懐へ向かったという。
 しかし、佳恵はさっと、体を必要最低限に動かして突進を回避する。
 この間、1秒も経っていない。
 当然、目標を見失った楓は、そのまま地面に思いっきり足をつける。 恐ろしい程の衝撃を楓の足を襲うが、獣人の体は本当に丈夫で、これくらいではビクともしないらしい。
 むしろ、あの瞬時の動きを見切った佳恵にとても衝撃を受けていたという。

「うふふっ……精神を統一させれば……これくらい可能ですわよ?」

 ガキン、楓は時計回りに刀と体を180度に振って、後ろに居る佳恵に一閃をする。
 もちろん、これも見切られて受け止められてしまう。
 すると佳恵は「甘いですわね……。」と、小さく呟き、楓の刀を綺麗に受け流し、一気に背後へ行った。
 これには「しまった……。」と、叫びながら後ろへ振り向くが、時すでに遅し。
 振り向いた瞬間、楓の眉間には雪刀の先が、寸止めされていたのだから。

「真正面の敵を倒すことに、夢中になりすぎて臨機応変に戦えないのは、痛いですわよ?いかなる時も、精神を集中させ刀を振らないと……。」

 佳恵は、楓にそう呟き、そのまま雪刀を鞘に戻す。
 楓はその場にペタリと座り「まだまだ私は修行不足というのか……。」と、悔しい表情をして呟いていた。

「(楓は元鞘嘉多元四天王で、実力は相当の物だ……それをいとも簡単に……やるな佳恵さん……。)」

 東牙は、この勝敗に少々驚き、改めて佳恵が相当の実力者というのは知る。
 もしかすると、自分も負けてしまうのかと、思ったのは言うまでもない。
 そして、少し落ち着いた時に楓は「次は、東牙と佳恵じゃないか?」と、当然のように2人へ言う。