複雑・ファジー小説

Re: 【第二話突入】ヒューマノイド。 【参照七百感謝】 ( No.167 )
日時: 2011/07/17 12:16
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: LMPzgpkP)



 敵……アンドロイド三体を前にして、ライは深い後悔の海に沈みかけていた。一人で来たのが間違いだった。強力なアンドロイド達に、ちっぽけな自分一人じゃ負けは確実だ。かといって、逃げるわけにもいけないのだ。ティアをつれて帰るのが目的、此処でライが死んだら何にもならない。

「来ないのなら、こっちから行くぞ」

 ライはキッと朧を睨むと、後ろを向いてしゃがみこんだ。
 アンドロイド達はライがとった行動が理解できずに、ただ立っている。

「ちょい待て」

 ライは首を少しひねって、アンドロイド達に言った。アンドロイド達は、準備した武器を鞘に収めると、ライの行動をまじまじと眺め始めた。
 ——俺の言うこと聞くんだ……。
 本来、持ち主や依頼主の命令しか聞かないはずのアンドロイドが自分の言うことを聞いたことに驚きながら、ライは二兆の拳銃のうちの一兆をティアの手に握らせた。

「危なくなったら使え。で、日本刀借りるぞ」

 ライはティアの耳元で囁くと、腰についている日本刀を抜いて立ち上がった。
 右手に握った日本刀の先端をアンドロイド達に向ける。

「成程、そういうことですか。随分仲間思いな方ですね」

 フェーレイが一度しまったレイピアをもう一度抜いた。





 恐らく最後になるであろう戦いを前にして、少女ユーリカは心に迷いがあった。

 ——どうしよう。
 此処で戦えば、きっと、ティアさんもライさんも死んでしまう。
 わたしにはティアさんは殺せない。
 でも、フェーレイさんと朧さんが戦うのなら、止むを得ない。
 どうしよう……。
 ねぇ、クロア。どうしたらいいの?貴方ならどうするの?

 ユーリカは藍色のワンピースをぎゅっと握り締めた。

 ——裏切ることになる。
 此処で逃げたら、ティアさんを、朧さんを、フェーレイさんを、裏切ることになる。
 それで、いいの?
 わたしは……——。

ガッ。

「——……!!」

 下を向いたまま、考え事をしていたユーリカに向かって日本刀が振り下ろされた。日本刀は朧の拳銃に突き刺さって、ユーリカには当たらない。

「ぼっとするな、死ぬぞ」

 ユーリカは謝りもせず、薙刀を握り締めた。

 ——今なら、ライさんは殺せる。
 出来ることなら、誰も死せないんだけど、な。

 ユーリカの大きな純白の瞳が潤んだ。

「お前、怖いのか?」

 ライはティアの日本刀を受け止めた朧の拳銃を払いのけると、日本刀を下ろしてユーリカに近づいた。

「俺等を殺すのが、怖いのか?」
「…………」
「お前の友人を救った奴を、殺すのが怖いのか?」
「…………なんで」
「お前、死ぬぞ」
「何で知ってるの!?」
「何か、流れ込んでくる。お前の感情、うざったい」

 目に溜めたユーリカの涙が一気に溢れ出した。

「しょうがないじゃないですか!!」







「お前も、同じだな」

「………え?」
「同じだ。感情を持った。〝怖い〟、と、〝悲しい〟だ。これで、ヒューマノイド化だ。良かったな」
「…………」
「もう、苦しまなくていい。壊す、から、守る、になったんだから、な?」

 ライがにっこりと笑った。
 ユーリカは涙でぐちゃぐちゃの顔を上げて、薙刀を横に振った。

「ぐぉっ」

 鈍い悲鳴がライの後ろで聞こえた。ライが振り返ると、薙刀が腕に当たって血を流した朧がしゃがみこんでいる。

「き、貴様……裏切った、な……」

 朧の腕からは深紅の血が滴り落ちている。


 ————綺麗だ。

 半分取れかけた腕を押さえながら、朧はもう一度低くうめいた。

「有難う、御座います」

 ユーリカが礼を言った刹那。






「うがッ!」