複雑・ファジー小説

Re: 【〝ヒューマン〟が暴走中】ヒューマノイド。 【参照八百突破】 ( No.180 )
日時: 2011/07/20 22:08
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: LMPzgpkP)



 少女ユーリカは取れかけた右腕を抑えてうずくまる朧を上から睨みながら、深い海に沈んでいた。疑問の泡が浮かんでは消える、蒼い海の底へ。
 ——何でだろう。ライさんが私に感情を与えてくれてから、身体が軽い気がする。
 ユーリカは目の下の淵に視点を集めるのに疲れて、目を閉じた。
 アンドロイドの名を捨てた末路。プログラムで制御された、全ての基板を砕いた末路。————こんな快楽が待っていただなんて。もっと早く、見つけてれば良かった……。

「貴方は、死にたいですか?それとも、生きていたいですか?」

 目を開いて、静かに問う。
 朧は下に向けたままだった朧が鋭い目線をユーリカに向けて、口の端だけで笑った。それは、壊れて、壊されたただのロボットが作り出す、〝苦痛〟と〝快楽〟が入り混じった笑顔だった。
 ——成程、だからライさんは同じだって言ったのか。

「俺は……俺はァ!」

 一度叫んで、そのまま朧は動くのをを止めた。二人の間に大きな沈黙と疑問と答えと快楽と苦痛とが混じった空気が流れ始める。
 ——答えは、此処にあるのに。

「……生きたい」

 朧は聞き取れないくらいに小さな声で呟いた。

「生きていたい生きていたいイキタイイキタイイキタイイキタイ……逝き、たい」

 答えは、すぐ目の前にあるのに、朧は手を伸ばそうとはしなかった。

「そうですか。じゃあ、仰せの通りに」

 貴方は、イキタイと言った。イキタイという欲を掴んだ。
 たとえそれに複数の意味がこもっていたとしても、彼は今、文字通りの快楽を満喫していることだろう。

「俺は、イキタ。ダカラ、イキタイ!オレハッ!!」

 壊れた笑顔で、涙を流す朧は、ユーリカの目に明るい光となって映った。
 ——同じ、ですね。確かに、この目で確かめられましたよ。

「有難う」

 彼女は、薙刀を彼の首に当てると、勢いをつけて首をはねた。


 ——ぐしゃっ。




「逝きつく先は、同じなんですね」

 首の切り口から覗くネジや基板が消えるのを、彼女は確かめて言った。





 彼の笑顔は凍りついたまま、永久に——————……。