複雑・ファジー小説

Re: 【参照千突破】  ヒューマノイド。  【気変わり再開】 ( No.222 )
日時: 2011/11/06 10:57
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: AidydSdZ)

 ヒューマノイド達から見てもロイと名乗る支配者の力は圧倒的で、自分達が戦っても敗北、もっと酷い場合は全滅になるということは明白だった。

 レイが恐怖の映った瞳でサイファーを見つめる。サイファーは目から、全てを読み取って頷いた。

 ヒューマノイド達は最悪の事態を避けるために、今回だけでも強大な支配者からの攻撃を回避できないかと、完全ではない体で考え、考え、今戦わなければいけないということから逃げていた。

「レイは戦う。サイファーも戦う。逃げるならさっさと逃げないと死ぬんだよ」

 レイは腰に付けていた茶色い革のケースからリボルバーを取り出して、右手にしっかりと握った。相手の様子をゆっくりと観察する。支配者はレイとサイファーから数十メートル離れた、壁の近くに立ってニヤニヤと口の端を吊り上げていやらしく笑っていた。

「逃げるなら逃げて。死にたいんならレイが撃ち殺してあげるから、今此処で」

 座り込んでいる者達へ、レイからの最後の警告だった。
 不意打ちをされたらひとたまりも無い。二人は支配者が何時攻撃を仕掛けてくるか分からないから、全意識を集中して相手の攻撃に備えている。

「残念だが」

 支配者の口が動くのを、スローモーションと言っても過言ではないくらいにしっかりと捉えた。

「俺は弱い相手を最低限の力で破壊するよりも、弱い相手に手加減抜きで最高の力で痛めつけるのが好きなんだよ」

 支配者は言い終えた後に、ククク、と、小さな笑い声をこぼした。
 瞳の奥の恐怖だけが顔に映っている感情だったサイファーの顔に、怒りの筋が浮かんで、消える。

「ゴア!」

 右手を横に指を開いて突き出し、大きな声でその名を呼んだ。びゅん、と、フードのついたマントのような彼の衣服が空を切る音が大きく聞こえた。
 すると、彼の右手の先の方から一つ、二つと長方形のガラス板のような物が現れた。次に、十何枚くらいのガラス板のようなものがくるりと回転を始めた。
 最後に、白い衣服がちらりと見えたかと思うと、それが広がって一人の少女に姿を変えた。

「アンドロイドナンバーK-107-00、Knight-type107-Gore、召喚さレマしタ」

 ところどころにノイズが混じり、聞きにくかった上に、機械的な声だった。
 支配者はさらに凄い黒笑いを顔に浮かべ、高らかに笑った。

「こいつは俺専用の守護用アンドロイドだ。結構可愛いだろ?この前拾ったんだが、中々高性能な奴でさ。君らを全員戦闘不能にするくらい、三分もかからねえくらいなんだよ」

 噴出した一粒の汗の水滴が、レイの頬の輪郭に沿うように滑って落ちた。
 アンドロイドとしてアンドロイドらしく、かすかにも動かない支配者の守護用アンドロイドがあまりに無表情で、彼女はその顔に支配者に対する恐怖とは別の恐怖を感じたのだ。
 自分は仲間と出会わなかったら、こうなっていたのか。そう思うと、ぞっとした。

「まあ、ゴアに全部やらせても詰んねえから、俺もやるけど」

 表情を変えながら話す支配者以外に動く者はおらず、戦闘を始める者も、逃げ出す者すら居ない。

「あと、最初に攻撃するのは俺自身がいいんだよな。いいか?」

 二人は無反応を貫いた。
 支配者は少し不機嫌そうに目を細めて、

「詰まんねえ奴等だな。戦闘ってのはもっと華やかにやるもんなんだよ。ほら、こうやってな」

 と言い、右手で指を鳴らした。彼の指から発せられる破裂音とともに、ぶちゅ、と、何かが潰れる嫌な音がし、ごろん、と何かが落ちる音がした。
 レイが音の聞こえた方、レイの右側に立つサイファーの方に素早く顔を向けた。

 目を、疑った。




「……………………ハァ、」

 サイファーが自分の左目を手で覆い、直ぐに離して目を覆った左手を目に移した。
 ——————紅、い。
 レイの目にはその紅い紅い、何処までも深い血と、左の眼球があった筈のその目の中、黒い黒い、何処までも深い空洞と、床に転がった眼球が、しっかりと映った。
 サイファーの左目部分の空洞から流れ出す紅い血は、涙のようにも見えた。

 ——こいつ……遠距離からサイファーの眼球を……。



「あれ、なんで〝溶けてる〟の?」

 支配者は笑った。

「まあいいか。また固まらせてやるし」




「さあ、戦闘を始めようか。もう二度と見られないこの世界の情景を、せいぜい忘れないように目に焼き付けておくんだな!」