複雑・ファジー小説
- Re: 【参照千突破】 ヒューマノイド。 【3-2うp】 ( No.223 )
- 日時: 2011/12/24 12:46
- 名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: AidydSdZ)
「何をしてるんですか、戦うんですよ!」
「レイは戦う。サイファーも戦う。逃げるならさっさと逃げないと死ぬんだよ」
二人の声が胸の奥で響いている。さっきから、何度も何度も、しつこいくらいのリピートだ。
——逃げなきゃ、死んじゃう。僕じゃ無理だ。僕はそんなに強くなんて無い。でも、逃げる勇気も無い。
それくらいのことは分かってる。分かっているが、全身が恐怖で震えて力が入らないどころか、声さえ出ない。
今すぐ、叫びたい。「助けて」って、大きな声で叫びたい。「こんな所嫌だ」って、「僕は人間だ」って、誰かに聞こえるように叫びたい。
『ヒコスケはつよいからだいじょうぶ、だいじょうぶだよ。僕は居なくなるけど、ヒコスケはつよいから、だいじょうぶだから……』
「うわあああああああああああああああああああああああああッ!!」
喉の奥に詰まっていた何かと、溜め込んだ感情の破裂。
その場に居たヒューマノイドの目が全てヒコスケに集まり、ゴアは歩くのをやめ、支配者は目を丸くした。
ヒコスケはふらつく足で立ち上がり、溢れ出した涙が視界をふさがないように、藍色の甚平の袖で右目の涙をふき取った。
「…………ライ、さんに、知らせて、来る…………!」
ヒコスケはヒューマノイドルームの出口に向かって、短い震える足で懸命になって走り出した。
が。
ピシ、パァン!
空を翔る破裂音と、小さな爆発音。
ヒコスケは自分に迫る弾が目に映った直後に、爆発の衝撃によって二メートルほどとび、壁に頭を打ち付けた。
「————こんなちっせぇ餓鬼に、さ、そんな事したら訴えられるぜ?」
彼女はゆっくり立ち上がり、右手に握った拳銃をくるりと回して、にや、と笑った。
「俺の爆弾が見えたのか、大したもんだな。しかも拳銃なんかで阻止するとは」
支配者の顔にまた、笑みが浮かんだ。
彼女、海渡は腰から左の拳銃も取り出して、支配者の目を、目の中を睨んでいる。
「ヒコスケ、早く行って、あいつを呼んで来い。遅かったら殴るからな」
ヒコスケは痛みの残る頭をぶんぶんと、痛みを振り払うように横に振って、起き上がった。
「…………うん」
ヒコスケの足音がだんだんと遠くなる。
——今、俺様や皆に出来ることは、耐えることだ。ライが来るまで。あいつなら、支配者とやらを倒せるかもしれない……。
「とっととくたばれクソ野郎。俺様はお前にやられるほど弱かねえんだよ!」
我ながら、大した強がりだ。
無意識に飛び出した言葉に、感心した。
「ゴア、今出てった子供を追って潰して来い。熟れ過ぎたアボカドくらいでいい、ぐちゃぐちゃにして来い」
熟れ過ぎたアボカドのようなヒコスケを想像して、背筋が凍った。頭は割れ、脳みそが流れ出し、体は潰れていたるところから血がどくどくと流れ出ている。
「ゴアは守護用のロボットでス。ロイ様の元を離れル訳ニはいきマセん」
ゴアが彼女達の向こうに居る支配者の方向にゆっくりと顔を向け、静かに、ノイズの混ざった音で告げた。
「いいから行け! 俺がヒューマノイドなんかにやられたりする訳ねえだろ不良品が!!」
怒声が轟いた。
支配者が呼吸を荒げて、拳を硬く握り締めている。
——あれ?
「…………了解、しマした」
ゴアが出口に向かってゆっくりと、歩き出した。
支配者の拳から力がだんだんと抜けて、呼吸も表情も落ち着きを取り戻し、また、余裕のあるにやけた表情が浮かんだ。
「俺はな、俺の命令に従わない奴が嫌いなんだ。何かと理由をつけて、反抗しようとする。イラつくから、力で押さえつけるんだよ。お前等も一緒だ」
自分が一番偉くて、自分が一番正しいことを言っている。正しいことに従わないのは悪い奴だ。そう決め付けて、自分を棚に上げたしゃべり方だった。
「そういう教育の仕方をすると親が怒って、教師が辞めることになるんです。知りませんでしたか? 常識ですよ」
サイファーがあからさまに人工的なうんざりした表情を作って、諭すように言った。
「で? 俺様達を痛めつけて教え込もうと? 残念だったな、俺様は一番言うことを聞かない不良なんだ。やれるもんならやってみな」
海渡が自信に満ちた表情で、手をまっすぐ突き出し、くるっと手のひらを返して「カモン」と指を折り曲げた。