複雑・ファジー小説
- Re: ヒューマノイド。 ( No.225 )
- 日時: 2012/07/15 23:31
- 名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: CMvpO4dN)
息は切れ、視界がゆがんでぐるぐる回る。恐怖、疲労、焦りが僕のジャマをする。
さっきから後ろでガシャガシャと、金属の塊が音を立てて追っかけてきているようだ。ゴア、という奴だろう。僕は死ぬんだ、殺されるんだ、多分。
でもその前に。その前に、ライさんに伝えないと。
少しだけ後ろを振り返る。やはりさっきの巨体が追っかけてきていた。あのスピードはちょっとしたホラーだと思いながら必死で逃げる。
わずか数秒後、ライが居るであろう部屋の開いたまま扉が見えた。数秒だ。それしかたっていないのに、ものすごく長かったような気がする。同時にゴアの体もものすごく近くにあるような気がした。
小さく悲鳴を上げて、部屋の中に飛び込んだ。
「ライさ……」
頭を何かが貫通した感覚。言葉が途切れた。
ライさんがこちらを振り返る。横たわったティアと、薄笑いを浮かべるもう一人のティア、血まみれのライが目に映った。
何でティアさんが、二人?
浮かんだ疑問もすぐに消え、意識が痛みに支配された。痛い、痛い、それしか感じられない、痛い。
「ヒコスケ!」
ライさんが叫ぶ。目の前の景色がゆがんだりかすんだり。
伝えないと。
「……死んじゃ、う。みんなが」
伝えないと。
「…………助けて!」
大きな声が出た。安堵が痛みをより強めて、酷いノイズが耳を劈く。伝えられた。
これで、みんなは。
「おい、しっかりしろ! 皆が危ないのか? おいヒコスケ!」
遠く小さく。
やっぱり僕は弱虫だった。だけど弱虫は弱虫なりに、頑張ったんだ、多分。名前も知らない女の子。僕の好きな女の子。僕の背中に傷をつけた大人に殺されちゃった女の子。ね、僕、頑張ったよね。
遠く、小さいあの子に。
「目的ヲ達成しマシた」
俺はいまいち状況が呑み込めないまま、ヒコスケの死体を見ていた。さっきの奴は何だ?目から光線出しやがった。
ヒコスケは、皆が危ない、助けて、と、確かに言ったんだ。
横たわったティアを抱え、扉の方へ向かおうとした俺を、ティアの声が引き止める。
「逃げる気?」
俺は肩越しに後ろを振り返る。彼女に罵声を浴びせるのもなんだか気が引け、何も言わずに部屋を飛び出した。今全身に切り傷を作っているのは、彼女がティアの姿をしているのが原因なのか。
ようやく出たどうしようもない勝てない理由に腹が立ち、舌を打った。
とにかく、急がなければならないようだ。