複雑・ファジー小説

Re: 黒電話がつげた ( No.6 )
日時: 2011/07/07 15:26
名前: 蛾 ◆sSA6ZLKK6w (ID: OnlANcr4)

第二章  きおくとかけら

 
 粋という子がいなくなってあれから一時間。俺はとくにすることもなく何をしていいのかも分からないのでただ単にぼーっとしていた。丁度一時間くらいした時、病院の看護師が来た。看護師さんが来なければ多分ずっとぼーっとしてた気がする。
 
 「さーて、そろそろなるんじゃないかしら」
脇の下に挟んだ体温計。看護師さんは腕につけた時計に目をやる。

  ピピピピッピピピピッ・・・

 瑛太は体温計を取り出した。
「おおうっっ!?」
 41度5分。今までにも見たことのない数値だった。高すぎる。この体温計ぶっ壊れてるんじゃねーの?
「どーれ、見せて? 」
看護師は体温計を奪い取る。
「・・・・ちょ、体温計違うの持ってくるわ」
 やはり看護師も俺と同じ反応をした。あーびっくりした。看護師は胸に名札をつけている。
幾多衣路?変わった名前もいるもんだ。「いくた」は分かったけど名前が微妙・・・。いろって読むのか?まぁいいや。この人に関わるのもほんの数日。
 衣路は一つに束ねた髪を揺らして病室を出て行った。その後姿を見送ると、また暇になった。天井はすっきりするような白色で統一されていた。が、白色のために汚れが目立つ。ところどころに茶色のしみがついていた。数分後、廊下の方から声が聞こえてきた。
「あー、もう五月蝿いなあー!ちょっとだけ静かにしてて!!」
どこかの母親のようだ。その声が聞こえて一秒も立たない間に病室のドアが開いた。衣路はさっきのとは違う体温計を差し出す。俺は受け取るとそれを脇の下に挟んだ。
「今誰かと喋ってました?」
気になったので聞いてみた。まぁ聞いても意味ないんだけど。
「ん?・・・ああ、今のね。アレあたしの兄さんの息子。今日一日預かってるんだけどもう五月蝿くて五月蝿くて・・・。」
衣路は愚痴を零し始めた。
「いろちゃーん、クレープ食べたーい。いろちゃーん、こぼしちゃったぁ〜。いろちゃーん、一緒にあそんでぇ〜。・・・もうまじムカつく!!」
 衣路はそこで話をするのをやめた。
瑛太は吹き出した。
「ははっ・・・、男の子なんて皆そうですよ・・・。誰かに構ってほしくてしょうがないっていう。・・・ね。」
病室のドアの前の男の子に向かって瑛太は笑いかける。
「ちょ、真!駄目だよ、廊下で待っててってば!」
衣路は真を無理矢理追い出そうとするが、真はなかなか出て行こうとしなかった。
「もー、言う事全っ然きかないんだから!」
衣路は呆れて笑った。
「この子が兄さんの息子。真って言って結構五月蝿いのよ」
 真は瑛太に向かって微笑みかける。

どこかで見たことのあるような笑い方だった。

 どこか・・・・。
真の無邪気な笑顔に鳥肌が立つ。
「ぼく、幾多真っていうの。おにーちゃんは?」
背筋に寒気が走る。
「こ、小林瑛太・・・」
 動揺して、声が震えた。
真はまた笑う。
 真の笑顔が瑛太の心の中をぐちゃぐちゃにする。乱してく。壊してく。
「スミマセン、今日はもう寝ていいですか?」
笑顔が作れない。瑛太はまともに衣路の顔を見れなかった。
「ん・・・?どした?・・・・・まぁそうね、安静にしてた方がいいわね」
 衣路が言い終わる前に瑛太は布団をかぶって寝る体制に入っていた。

病室のドアが閉まったあとで廊下から「さ、真も帰ろ。」という衣路の声がした。しかしその時、瑛太は既に眠りについていた。