複雑・ファジー小説

Re: 俺様の勇者伝説 第一話 俺、捨てられてるんだけど。  ( No.2 )
日時: 2011/06/18 16:30
名前: ミロカロス13 (ID: VYCQ1KaR)

まだ朝日が昇り始めたばかり、
一人の赤ん坊の産声があがった。

「あぁ・・・ありがとう。生まれてきてくれて・・・。」
母親だろうか。
まだ若い女性が赤ん坊を抱きしめている。
その横では助産師が立っている。

「でも、私はもう駄目だわ・・・。
あの人も、もういない。
あなただけでも生きて・・・。」

「メリル様・・・。」

メリルと呼ばれた女性は、助産師を見、赤ん坊に
微笑むと、そのまま息をしなくなり冷たくなっていく。

赤ん坊はまだ少し温かみのある腕に抱かれながら、
ないている。

そして助産師は、見てしまった。
赤ん坊の髪を。
身体に刻まれている、その印を。

助産師は赤ん坊を取り上げ、丁寧に洗い、上質な布を巻き、
山の奥へ捨てた。

赤ん坊の髪は茶で染められて、そして決定的なのは
身体の印。
黒く、魂が渦巻いているかのようにあるその印は、
その国では、邪悪なものとして嫌悪されてきたもの。
茶の髪は、その国で禁忌とされた髪色。

山奥で、赤ん坊はないていた。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

ザッザッザッ

一人の男が、山の奥深くを歩いていた。
漆黒の目と髪が合う、顔のいい男だ。
一つの剣を持ち、いたるところに傷を負っている。
男が歩いていると、赤ん坊の泣き声が聞こえる。
「・・・?赤子か・・・?だが、こんな山奥に何故・・・。」
泣き声を頼りに歩いていくと、それはたしかに赤ん坊だった。

「布がかなり上質だな。売ったらとんでもねぇ値になる。
この赤ん坊、どっかの貴族のか?・・・いや、それはねぇな。」
それだったらこんなところに捨てないだろう、こんな高い布と一緒に。

男はそう思いながら赤ん坊を抱き上げて、赤ん坊の状態を確かめた。

「これは・・・!」
赤ん坊の腹には、黒い渦のような印。

「なるほどな・・・。捨てられている理由も分かった・・・。
おい、赤子。俺のところにこないか?」
すると赤ん坊は泣くのをやめ、
「あー」
と言った。

「いや、わかんねぇよ。
まぁいいや。連れて行こう。これじゃ可哀想だ。うん。
さすが俺、めちゃくちゃ優しい。」
と、自分を自画自賛した男は赤ん坊に向かって言った。

「俺の名前はクルアだ。よろしくな。
あとで、お前の名前も考えてやるよ。」
「あー」
「だからわかんねぇって。」
クルアは苦笑し、自分の家への道へ歩き出した。

第一話 完