複雑・ファジー小説

#01 - 馬鹿ですよ、どうしようもなく ( No.10 )
日時: 2011/07/13 22:44
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)

[ 馬鹿ですよ、どうしようもなく ]


 「先輩は、馬鹿ですよね」

目の前に居る、池田嬉季と言う少女は敬語を使っているが、僕の事をちゃんと先輩と呼んだ筈なのだが、罵声を僕に浴びせた。敬ってるのか貶してるのか分からない奴である。

 「僕の事を馬鹿なんて言う奴は今まで半殺しにしてやって来たんだぞ」
「先輩の武勇伝ってある意味嘘をよく吐く事ですよね」

そうだった。これは褒め言葉なのだろうか? うーん、やはり矛盾している奴だ。
 まあ確かに僕はどうしようもなく臆病で誰かを半殺しにする以前の話で絶対的に僕は半殺しされる側だと自分で理解している。自分の事は、自分が一番分かる。当たり前の事だ。
 武勇伝とは言ってもその嘘は臆病過ぎて出たりする。まあ、関係ない嘘とかもよく吐くけど。嘘は泥棒の始まりだなんて言うけれど全然問題ない。なぜなら僕の頭は万年エイプリルフールだからである。

 「武勇伝はそんな卑怯なものじゃない」
「いやいや、嘘は使い様によってはカッコイイっすよ。先輩は使い方が悪いだけです」

 池田はそう言い放った。僕の嘘がカッコ悪いって、言う奴じゃねえか池田嬉季。
僕の嘘のカッコイイ所は何より自分の為である。怒られたくないから嘘を吐く。窓を割ったりすれば、流石に嘘は吐けない——と思うだろう。しかし、僕はそれでも嘘を吐いた。この池田後輩に罪を擦り付けたのである。僕は一応池田よりは成績良いしサボリもないしで良い子ちゃんなのでサボリしてる池田なんかよりずっと信用されている。あまりカッコイイ話ではなかった。

 「例えば——どんな嘘がカッコイイんだ」

僕は自分の嘘を心に閉じ込めて池田に訊ねてみる。池田は不機嫌なのか単に無表情なだけなのかよく分からない表情で言葉を放った。

 「少年漫画の様に、まあ腐受けしそうですが誰かの為に嘘を吐く、とか。ツンデレって言うんですか?」
「大丈夫、それは明らかにやおいさんの感性だから」
「やおいって、そもそも先輩ごときが意味分かるんですかー?」

わ……分からなかった。ただこんな感じに使うのだろうなと思っただけである。それはともかくコイツ確実に僕貶してると思うんだが。

 「それぐらいの嘘、僕にだって吐けるぞ!」
「それも嘘ですよね。先輩はいっつも、自分の為に嘘を吐きます」
「嘘じゃねえよ。お前にだったら、そういう嘘ぐらい、吐けるさ」

僕が真剣に言ったってのに、高らかに池田は笑い出した。全く、どこまでも失礼な奴である。

 「先輩は、やっぱり馬鹿ですね」

そう屈託の笑顔を向けられて貶されても、何ら嬉しい事はなかった。


 
馬鹿ですよ、どうしようもなく / end