複雑・ファジー小説
- #01 - 最高に熱い夢を ( No.11 )
- 日時: 2011/07/20 22:21
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
[ 最高に熱い夢を ]
「あっつーい……」
アイスキャンディを食べながら、扇風機の前で声を出してガラガラになった自分の声を聞くお馴染みの遊びをする彼女は、只今夏休みの宿題真っ最中だった。
七月末。彼女の部屋にはクーラーが付いているが、眠りにつく時以外は使うことを禁じられている。そんな家もあるんじゃないだろうか。
扇風機の風と窓から来る微かな風の中で彼女は宿題をしていた……がそれは当たり前の様に長続きしなかった。
せめてクーラーでもありさえすれば、一時間半は持てたのに——と彼女は頭の中で考えていた。
「ぐうう、宿題なんて無くなればいいのにーっ! 何であるんだよこんちくしょー!」
彼女は食べ終わったアイスキャンディの棒をごみ箱に捨ててそう叫んだ。近所迷惑にならない程度の大声で。
彼女は回転イスからベッドへと横たわり、数分間。瞼が完全に閉じ、その部屋は静かになった。音と言えば、たまに外から来る風が入ってくる音くらい。
——そこは夢の国。御伽噺。強く、熱く願うと行く事ができる。ただし、意識がそこにある限り。意識が、夢の中にしかない限り。
「ん、あれ。私、宿題してたはずだけど」
花の中で眠っていた彼女は起き上がり、辺りを見渡して言った。どこを見ても花の中。花畑と言うには広すぎて、どちらかと言えば花世界で合っている気がする。
「あちら側は、暑いかい?」
しゃがれた声の主。は、ウサギだった。白ウサギ。可愛らしい、赤い目の白ウサギ。外見だけで声は微妙だが。
喋るウサギを見ても彼女は驚く事もしなかった。まあそれは夢だから有り得ない事も起こり得るのだが。
「どこに行っても熱いけれどね」
彼女の返事を聞かずに勝手に語りだした。
「キミの視線が熱くて熱くて、ぼくもとろけそうだよ」
笑いながら、しゃがれた声で。そして燃える様な赤い瞳で、熱い視線で、こちらを向いて。
「最高に熱い夢を、キミに見せてあげる。キミもずっと、熱くぼくらを見てよ」
彼女の顔を両手で押さえて、妖しい笑みを浮かべてみせるウサギ。その手は毛むくじゃらで暑かった。
————現実に戻ると、そこはとても暑くて、彼女の体は汗だくになっていた。
窓から聞こえる風の音だけが、その部屋に鳴った。
最高に熱い夢を / end