複雑・ファジー小説

Re: 【短編】 混ざり合う絵の具 【物語】 ( No.20 )
日時: 2011/09/20 20:36
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

[ ぎょろぎょろして叫んでます ]


 彼女は、窓側に置いてある真っ黒なイスに、腰をかけて空を見上げた。でも実際に、彼女が何を見ているのかは僕にすら分からない。
 それは僕の心の中かもしれないし、誰かの行動かもしれないし、自分自身の深層心理に気付いて多分自己嫌悪してるのかもしれない。……彼女は電波な子だから、特に気にしていないとも思うんだけど。
 目玉をいっぱい、これほどかと言うぐらい持っている彼女は、人の行動とか、心とか、普通気付かない沢山の事を見る事ができる。いこーる、ストーキングという、言葉にしてしまうと卑猥そうな意味をイメージしてしまうそれを出来たりする。

「ふうッ」

彼女が頭を後ろに振り切る。勢いが良すぎたせいなのか、イスも後ろへ大きな音を立てて倒れた。多分痛みは無いだろう、と勝手に決めつけて、僕は彼女の今からの騒音が五月蠅いから向こうに行く。
 僕が部屋を移動して数分後。彼女がえだした。これだけ部屋が離れていても、耳を劈く彼女の叫び。トラウマタイムってやつだったり。
 山奥の家だから、苦情が来る事はないだろうけど、登山をしに来た人達はやっぱりこの騒音を聞いたら驚くんだろうなあ、とか思ってみた。いやでもこの山、名前とかも無いし、こんな所に来る人もあんまり居ないんだろうなー。とか。一人で空しく寂しさを紛らわせる。

 ——彼女のトラウマって、どういう事なんだろう。
 ずっと前に、——多分その時も彼女は自分の目玉で何かを見ていたんだろう。そこから始まった。僕が退屈して君を見ていると、君はいきなり吼えだした。あの時は混乱して何が何だか分からなかった。でも、確かに五月蠅いと感じて、君を抱きしめたのは覚えてる。そして君が静かになったって事を覚えてる。鮮明に。とても鮮やかに。他の場面が白く見えるぐらい、どこだけに色が集中している。
 僕が考え事をしていたら、いつの間にか、トラウマタイムは終わって、静寂が家全体を包み込んでいた。ああ——もう終わったのか。
 僕は君の居る部屋に、軽く走ってから行った。君を見かけると、僕は君に駆け寄った。静かに寝息を立てて、寝ている。大声を出して、疲れたんだなあ、と微笑。彼女の顔には涙の跡があって、何を思ったんだろう、という僕の疑問が頭にぽんぽん出てくる。が、それは無視だ。
 今だけは、君を大切に抱きしめていよう。

「——ねえ、目玉ちゃん。教えてくれたって、いいじゃないか」

寝ている君に、僕の本音を吐き出してみた。



ぎょろぎょろして叫んでます / end