複雑・ファジー小説
- Re: 【短編】 混ざり合う絵の具 【物語】 ( No.23 )
- 日時: 2011/09/30 23:05
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
愛咲爽は、この私、愛咲陽と五歳離れていた。そして明日、愛咲爽が愛咲爽としての存在が全て消えてから、五年経つ。私はお姉ちゃんに、追いついてしまった。
——お姉ちゃんは、おてんばで、好奇心旺盛だった。静かな空間になる、読書の時間や授業時間だって、必ず怒られる程。小さい頃は動く事ができなければ駄々をこねて、それでもお母さんに駄目だと言われ、泣いていたらしい。
それでも、私のお姉ちゃんが泣く事は珍しかった。強がるのが得意で、いつだって弱気な私とは大違い。妹の私が泣いてしまったら、怒られるのはお姉ちゃんだけれど、それでも泣く事はせず、私に怒る事もせず、ただ優しく笑ってごめんね、と一言言ってくれた。あの時がとても恋しい。
おてんばなお姉ちゃんはいつまでもおてんばで、お姉ちゃんは五年前に、存在を失った。大学生だった。ただの事故で、私たちを泣かせた。もう戻らない。愛咲爽は、最後の最後に私たちをとても悪い意味で号泣させて、この世から消えた。それだけのお話。
だけど記憶は残った。私たちの中からは絶対消えない、お姉ちゃんの存在と、私の手には、彼女が出て行く時に落とした髪飾り。
そして月日は流れ——ついに私が大学生となった日。私はお姉ちゃんと同じ大学に入学し、同じアパートに住んだ。部屋まで同じとは、いかなかったけれど。
それなりに、普通の人生を送っていた。彼女が現れたのは、まだ少し寒い、二年前の春の日。出会いは、突然。なぜか知らないけれど目隠しされた。鬱陶しく思ったけど、私はそんな事なんてどうでもいいと思うくらい驚いた。彼女は、透けていた。
俗に言う幽霊とか言う存在なのだろうか。疑問符。半信半疑。私は、信じられなかった。彼女が、私の存在を知っている——だなんて。でも後から話してもらった。彼女が私のお姉ちゃんであった事を。そして、風に生まれ変わった事を。だから彼女は、もうお姉ちゃんじゃない。ただの、人間になりたい風。
でも彼女と話せる事が、嬉しかった。懐かしかった。
「ありがと、陽」
涙を流していた。透けて見えるその顔には、しっかり涙が頬を伝っていた。そして、私の頬にも、涙が伝うのが感じる。
「お姉ちゃんにそう呼ばれるのは、久しぶりだ」
「お姉ちゃんって呼ばれるのも、久しぶり」
お互いに泣きながら笑う。
でもお姉ちゃんは、既にお姉ちゃんじゃない。私は、いつまでもお姉ちゃんに、お姉ちゃんと言い続けていたいけれど。それは駄目だと、彼女が目で諭す。
「アンタのお姉ちゃんは、もう居ないから。来年のプレゼントでもいいから、私の名前をちょうだい」
「そんなの、去年の分のプレゼントよ、風日!」
「ふ、うか」
「風に日曜日の日。私とアンタの名前を合わせただけだから」
泣きそうだから背中を向けたら、風日の顔が前にあった。恥ずかしく思いながら、私は笑った。
明日笑うのは、私と風日。いつもの帰り道、風でひらひらと舞う枯葉を見ながら、へらへらと笑う。
そんな涼しい、秋の日。
ひらひらと、へらへらと、 / end.