複雑・ファジー小説

Re: 【短編】 混ざり合う絵の具 【物語】 ( No.24 )
日時: 2011/10/16 11:19
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

[ ぎすぎす、 な ]


 ああ、 気まずい。 私のいつもの帰り道は、 空気がきりきりと張り詰めていた。 静かなのは、 いつもと変わらない。
 よりによってコイツと帰る事になるとは……一緒に歩いているのに、 会話ができないこのもどかしさに、 イライラする。

「おい、 くさったみかん」
「私が腐って見えるんならアンタは眼科に直行した方がいいんじゃない、 とオススメしてみたり」
「余計な心配ありがとう、 とだけ言っておく」

何が余計な心配だ。 透の言葉を最後に、 その場はまた静寂を取り戻す。 秋風が吹く涼しい筈の外の空気は、 誰かさんと居るせいで相変わらず、 楽しくない。
 ……て言うか、 コイツは私に何を言いたかったんだ。 用があるなら、 さっさと言えば良かったのに。 でもコイツは何か気にしていない感じだからなあ……むしろ気にしているのは、 私の方な気がする。
 透を見ながら、 私は帰り道を歩く。 ああもう、 家が隣って嫌だ! 遠回りしてでも他の道から帰りたいところだが、 生憎私は方向音痴で、 この道以外に帰る道を知らなかった。

「んだよ、 俺の顔に見とれてるのか?」
「いや、 その鼻の穴にスイカぶちこんでみたいと思って」
「ちぎれるからやめろよ。 死ぬから」
「今の助言で実行してみようと思った」

罵り合い、 の始まり。
 私と透はいわゆる幼馴染って奴で、 まあ当然仲は良くない——筈なのだが、 なぜだか皆から誤解されている。 こんな性格の悪いナルシストヤローとなんか付き合うわけねーだろ、へっ。 とか心の中で悪態をついてみる。
 小学生低学年くらいまでの頃は、 普通に仲が良かったけども、 高学年に上がって、 生意気にも、 透を好きな子が現れた。それは私の友達であり、 物凄く可愛い子なのだ。 ちなみにその子は未だに透が好きである。 それはともかくとして、 私はその時思いがけない言葉を言われたのである。

「蜜柑ちゃんってー、 透の事好きなのー?」
 
全否定した私と相対に、 偶然にも教室の中で汗だくになっていた透は、 その言葉を聞いて、 「ばっかじゃねーの? あるわけねーだろ」げらげら。 そこで私と透の仲は離れていったたわけである。
 まあ普通の男子よりは接しやすいものの、 あまり近付く事はなくなった。 多分そんな感じ。 


「おい、蜜柑」

透が私の名前を呼んで、 私は過去から現実に引き戻された。 ん? 今ちゃんと名前呼んだ? 透が、 私の名前を?
 ありえない。 コイツ麻薬でも飲み始めたか? うーん、 奇妙である。 おそろしい。
 ちゃんと名前を呼ばれた事にあたふたしていた私は、 妙に真剣な透の顔を見て、 冷静になる。 とは言え、 落ち着かないのは変わらない。
 既に空は、 オレンジと紫でグラデーションを作り上げている。 風が吹く中で、 先程のぎすぎすした沈黙とは違う沈黙が、 その場に流れる。 悪い予感。

「——俺、 お前の事好きだよ」
「そんな事言うなよ、 恥ずかしい」

そんな事、 とうに知ってるから。 ばればれだから。
 でも私は、 あの日からアンタの事好きじゃないんだ。 あらゆる意味で。

「そんな事だろうと思った」
「なら言うなよ」
「いいだろ別に」
「今度寝てる時にクワガタ挟んでやるから。 鼻に」



ぎすぎす、 な / end



息抜きのつもりだったのに結構長くなってしまった。
ほのぼのとした恋愛は好きだけど告白ははずかしい。そんな感じ。