複雑・ファジー小説

#02 - Dreamer  ( No.3 )
日時: 2011/06/26 13:54
名前: 紫 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)

 「——アンタは、何か夢とかあるの?」
「俺の夢? 俺はー……」

話を戻して有芽に訊き返してみるが、有芽は首を捻らせて考えたが、そもそも有芽には何もなかったらしい。
 何も話さずに静かな道を歩く。空は既に真っ暗で、電灯がないここら辺の道はあまり道が見えない。冬であれば何も見えないな、これは。

 「まあ、将来の夢なんてお前の旦那とかになってりゃいいか」
「じゃあ今からバイト始めてな、おとーさん」
「お前、普通の人なら恥ずかしがるか否定するぞ」

私が有芽の顔を見ずに夫婦になる事を肯定すると、呆れつつ有芽が返してきた。なんだよ、お前が言った事じゃないかよ。

 「否定なんてしないよ。金があればね」

金さえあれば二人で生活するのも楽だ。いや、むしろ二人の方が何だかんだで心強いし寂しくないし。一人よりも、楽だと思う。

 「お前なあ……」
「アンタの事は、まだ好きだしさ」
「んなっ」

ハハ、と有芽に向けて笑うと、有芽は赤面して両手で顔を隠した。照れ屋さんめ。

 「俺恥ずかしい! もうお前いやだ!」
「まあとにかく。金があるなら同棲してもいいよ。私の夢は大変だし。誰か居ないと心細いしねー」

わざと有芽にそう言ってから、前を向いて歩き出す。
 すると、後ろから有芽が私を呼ぶ声が聞こえた。

 「夢芽」
「んー、なにー?」

顔が自然に綻びるのが分かる。何だか、ふわりとして嬉しい。

 「俺、お前の傍にいてやるよ」
「偉そうに言うなよ」

キザな事を言う有芽の足を蹴って、笑ってみた。

 私は沢山の夢を見て、生きる。そんな感じの、ちっちゃい小鳥。



Dreamer / end