複雑・ファジー小説
- #01 - イレギュラー ( No.7 )
- 日時: 2011/07/08 22:18
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
[ イレギュラー ]
どこまでも白い世界で、狂いそうなほど真っ白で空虚の中で、二人の人影があった。
「長く艶やかな金髪、空色の澄んだ瞳、華奢な体、歪んだ心、素晴らしい戦闘能力。貴方は完璧な人よ」
「いいや、完璧なんかじゃあないね。一つだけ、大きな間違いを犯してたのさ、私は」
二人とも両手にナイフを持ち、互いに突き刺す行為を繰り返す。しかしそのダメージは体に反映しなかった。
当たり前である。なぜならここは深心世界と呼ばれる、心、魂だけしか来る事のできない世界。いくら武器を持っても、いくら相手を突き刺しても、それは体には届かない。
ダメージを与える方法は、たった一つ。相手の心を怖し歪ませ狂わせる事。
瓜二つの彼女達——いや、一心同体の彼女達が分裂して繰り広げているこの戦いは、いがみ合っているわけでもなく、無論褒め合っているわけでもなく、自分を愛し、嫌っているからこその戦いだった。
片方は自分の全てを否定し、片方は自分の全てを愛した。
「私も貴方も同じ。私は貴方が好きだし、自分の事も好き。完璧だと自分で思うのに、貴方が好きになってくれない」
「一つの間違いを犯したらそこで完璧は無くなるんだよ。つまり、私らは完璧じゃないんだ」
そう言って、またナイフを突き刺す。体には響かないけど、心に響く痛み。
「私らは最初から依存する相手と否定する相手を間違ってたんだよ」
————愛す人と、嫌う人の一番を自分にしてしまったから。
彼女は目線を下に向けて、哀しげに呟いた。もう一方の彼女は、その場で泣きじゃくった。子供の様に。
しかし泣きじゃくる彼女を見ても、片方は突っ立っているだけで、何も近寄らない。それは、弱虫な自分が大嫌いだから。
泣きじゃくる彼女は、泣きながら笑う。泣いてる私も、大好きだから。
「だから、私らはイレギュラーなんだ」
「消滅しないと、いけない存在——なのね」
両方は顔を合わせて言葉を交えた後に、自分を愛していた彼女はもう一方を抱きしめ、自分を嫌っていた彼女はもう一方にナイフを突き刺した。どちらとも手に強く力を入れて。
嫌いな自分に抱きしめられた片方は精神が歪んだ。好きな自分にナイフを当てられた彼女は精神が壊れた。
そして二人は消滅していく。
——イレギュラーは、いつだって居てはならない存在なのだ。
「次は、愛せる相手と嫌う相手が他人になればいいね」
二人は同時に小さく呟いたと言う事は、誰も知らない。
イレギュラー / end