複雑・ファジー小説

Re: ゴッド・コードウルフ。 ( No.31 )
日時: 2011/07/19 07:35
名前: 龍宮ココロ (ID: 6xS.mLQu)
参照: http://yaplog.jp/yukimura1827/

魔斬王我、只今絶賛—— 男子の痛い視線にダメージを食らっています。
「王我の奴…羨ましい…」
「王我…すぐに離れろっつうの…」
うわぁ…妬魄しい声が聞こえるし。
一応俺はその男子の声を聞こえない振りをしているが、凄く冷や汗が滴る。
男の嫉妬は見苦しい、女よりも…ちなみに俺の談と言う事で。
「あの、大丈夫ですか?」
「あー…えっと、霜雪さんだっけ。ま、まぁ大丈夫…かな?」
アハハ…と俺は苦笑した。
だってねぇ、この状況ますます俺の人生には無い予想外の事なんだよ !?
俺は地味にいて地味に過ごして生きて行きたいんだよ !!
でも…マフィアの幹部だけどね、普通じゃないよね地味じゃないよね。
うん、分っているよ……分っているからこそ不憫だし嫌なんだよっ !!
そんな時間が長く長く続いた。

———

「あー…やっと放課後、だぁ」
いつも以上に精神が削がれて結構体力もヤバイ。
昨日の任務もあったって言うのに…まったく。
「そういえば…今日、任務オフだったなぁ…」
昨日、家帰って風呂に入ってすぐ寝ようとした時に臨兄から電話があり「明日はボスへ任務報告する日だから、オフでいいよ」と優しく言われたのをふと思い出す。
臨兄は時々ボスに直接報告する日を決めているらしい。
その日は絶対任務自体をオフにして幹部を休めさせ、その代わりに「ソルジャー(構成員)」と「アソシエーテ(準構成員)」を働かせるらしい。
だが、「ソルジャー(構成員)」と「アソシエーテ(準構成員)」は互いに自分の地位を上げて幹部に昇進しようと思う俺よりも弱い屑の集団。
「…3年前を思い出すなぁ」
入った時の熾烈な争い、紛争、残虐や裏切りなどいっぱいあった。
勿論俺は何度も殺されかけそうになるけれども、自分を壊した自分の本能により反撃していた。
あの時は物凄く死に物狂いで怖くてしょうがなくて。
それでもやっぱり——。
「本当に、上手いよなぁ—— 臨兄。俺を本当に幹部にしてくれたなんて…」
自分を壊していたあの時、あの汚い場所で差し出された唯一の—— 光。
でも、それが怖くてしょうがなくて飢えていて最初は拒絶していた光。
「あの時も同じような感じの夕日だったなぁ…」と綺麗な夕日が映える廊下でボソッと呟いた。

———

「—— 失礼します、父上」

ギィィィ…と年代が入ったような唸りを上げる扉を俺は押した。
押して入るとふわっと年代が少し古いようなレトロな感じの匂いが漂う。
「おぉ…待っていたよ、臨音君」
真っ直ぐ視線を向けると、にこやかにして椅子に座っていた40代を過ぎたような男—— もとい我等のボスであり俺の父でもある『降王 佐久治(こうおう さくじ)』がいた。
俺はそのボスであり父である彼に少し苦笑して見せた。
「“君”とは…。俺は貴方の息子なんですから、言わなくてもよろしいのでは?」
「何を言っているんだい、君は確かに私の息子だが—— “出来の良すぎる息子”だからこそ君付けで呼ぶのだよ?」
クスクスと笑みを返しながらそう父は言った。
変わらない、昔からこうして—— 俺に対しての態度は。
俺は確かに出来の良い息子だと思うのだが、本当に父にとって俺は何なんだろうとつくづく思う。
いつまでもこうして変わらない、それがもしかしたら俺にとっては嫌なのかもしれない。
「…なるほど、貴方らしい答えですね父上」
少し笑い交じりのため息を俺はした後、真剣な表情に変えた。
「父上、いや…ボス、一昨日と昨日の報告をするために参りに来ました」
「…いや、話さなくてもいい。君達がやった活躍はテレビでもニュースでも流れていたのをちゃんとこの目で見届けたからね」
「…そうですか」
「それはそうですね。失礼しました」と少し一礼をする。
その姿を捕らえながらも父上は少々クスクスと笑った。
父上がこんなに笑うとは…あまりにも何かを見透かしているようだ。
父上が笑うのはいつも何かを見透かしていて自分だけは知り、俺達部下である者達には教えもせずに静かに傍観している。
そんな父上の思考がまったく読めないのが一番—— 嫌いな事だ。

「—— そんなにこの私の思考が見たいと思っているのかい、臨音君?」
「—— っ !」

図星である場所を当てられて少し冷や汗が出る。
黙っている俺を見て「やはりな」と言ってまた少し笑った。
「君は確かに私の息子で、しかも最も私に近い幹部筆頭だ。だが、君はいつも思っていただろうね。“『何を思って言ったのか?』”、“『最後まで見透かしているんではないか?』”と。私は、ボスは“『その何かを知りつつ、何故自分達に教えないのか』”と——」
「…流石ですね。父上は俺の心まで見透かせるほどの何かを持っているのですか?」
「私にはそんな能力など無いよ。…そんな能力があったら欲しいものだね」
苦笑する父上の姿は俺の瞳はきっちりと刻んだ。
手の裏の裏をかくこの人は油断も隙も無い。
俺の父上は近くに置いてあったワインの入ったグラスを持つ。
「…別に君達に意地悪をしているわけじゃないさ。ただ…君達にワインを注ぎ足しすぎるとその存在は狂って壊れて使い物にならない。その後はただただワインが欲しくなってせがんでせがんで—— 自分の足さえ立てなくなってしまう」
ガシャン…とワインの入ったグラスをわざと落とし、グラスが割れて入ったワインが溢れ出る。
「すると、このワインの入ったようなグラスのように割れて自分自身を自爆させる事となる。つまりは—— 禁断なる果実と普通なる果実を元々別けられなく、ただただ喉を詰まらせてしまうと言う事だ」
「…つまり、俺達には普通なる果実を与えているのはボスであるけれども—— 俺達はその普通なる果実を整理し別ける事を覚えるためであると?」
父上の言う事をまとめ、そう言うと微かに頷いたのが見えた。
「流石だな、理解力が早くて私にとって余計な精神など使わなくて済む」
そう言った後、少し父上は息を吐いた。
さっきまでの言葉に力を入れていたのだろう、力が若干抜けるのが分る。
「…父上、今の所でも良いんです。貴方は今—— 何処まで見透かしているのですか?」
俺のその言葉に少し苦笑して返して言った。
「—— さぁ、どこまでだろうね?」

      ——その言葉に少し違和感を感じた——

         第9話「Report」