複雑・ファジー小説
- Re: ゴッド・コードウルフ。 ( No.41 )
- 日時: 2011/07/31 09:22
- 名前: 龍宮ココロ (ID: 6xS.mLQu)
- 参照: http://yaplog.jp/yukimura1827/
「王我、待ってたよ」
いつものマフィアが着る黒い服に身を包んだ俺はマンションの階段を降り終えた時、凛とした声の持ち主である臨兄がいた。
臨兄のすぐ後ろには黒光りが目立つリムジンがある。
というか、あまりリムジンなんて見ないし乗らないんだけども。
「紅真と巡斗は、今回の幹部集会場所に先にいるらしいから俺達も急ごう」
臨兄の言葉に少し俺は頷いた。
一瞬も気持ちを緩めてはいけない、それが今回のヤクザ達との“全面戦争”だ。
俺の緊張は一向に高まりながら、リムジンのドアが開いた瞬間吸い込まれるように俺は中に入って行った。
その瞬間は、いつもの平凡な日常に離れて寂しいような変な気持ちを持ったような気がした。
———
霜雪流空茂、14歳。
いつもの平凡が大好きで、両親も大好きだった14歳。
今日はそんな私の誕生日、両親はいつも笑顔で一緒にいた。
一緒に過ごして行く、それが普通だから。
霜雪流空茂、14歳。
いつもの学校が好きで、明るく友達もいた14歳。
今日は私の誕生日、皆祝福してくれた。
笑顔が増えてとても私は皆大好きだった。
それが普通だと知っていたから。
それなのにあの14歳の誕生日は—— 闇夜の赤い雨の中に私はいた。
私には分らなかった、今私の目の前に倒れているのは誰?
いつもは温かい光の中、なのに今いるこの部屋はとても冷たく赤い何かが私の髪に付いて——。
私は分らなかった、今私の目の前にいる脅かすような影は誰?
私は分らない、今私に近付いて来る脅かすような影の所有物に。
私は息を止めた、血だらけでいる脅かす影に。
そうして私はやっと—— 理解した。
目の前に倒れているのは私の両親で、私に近付いてくるのは私の両親を殺した何者かで、その何者かが持っている所有物は——両親の血を吸う太刀で。
「—— いやぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁあああああぁぁぁぁぁぁっ !!」
怖くて動けなくてしょうがなかった私は、ただただ叫んで逃げていく。
そんな私の姿を脅かす影は…あの影は——。
——“ヒ ト ノ ヒ メ イ ニ ワ ラ ッ テ イ タ”——
「じょう…ま、お…様—— 流空茂お嬢様っ !」
「—— !!」
ハッと急な大きな声により、彼女は大きく眼を見開いた。
少し自分自身息切れている、少し汗もかいていた。
眼を見開いた世界はあの影が笑っていた闇夜の世界じゃない、光が包みあの影などいない平和な世界だ。
少し挙動不審のようなそんな顔の彼女を見て—— 執事の累は心配そうな顔でいた。
「…私、寝ていたの?」
やっと喉から自分の声を出して発する、その言葉に少し執事の彼は頷いた。
「はい、お疲れだったのでしょうから…。それよりもお嬢様…大丈夫でございますか? 学校に着いたのでお声を掛けましたら凄くうなされておらっしゃって…」
「うなされ、て…」
少しだけクラッと一瞬目の前が真っ白くなるが、自分自身耐える。
「そうだ、またあの夢を見たから…」と心に思って。
「また、見たんですかあの悪夢…を」
彼は彼女の顔色を見てそう口にする。
彼もだてに執事と秘書をやっているわけじゃない、父親の時から彼は若くして執事としている。
だからこそ彼女の事は十分分っている理解者だ。
「…えぇ。でも…もう大丈夫だから」
心配を掛けない様に彼に少し笑って見せた。
そんな彼女の顔に少し彼はちょっと眼を伏せる、痛々しいと思ったからだろうか。
それでも、彼女は—— やり遂げなければならない事がある。
その事を理解するのも彼は十分分っている、けれど彼女はまだひ弱いように感じていた。
「…そろそろ、私行くわ」
その言葉に彼は少し間を開けてから頷いた後、彼女を車から降ろした。
——ここで留まっちゃいけない。私は…“復讐”するために、生きているのだから——
第12話「Approach」