複雑・ファジー小説
- Re: ゴッド・コードウルフ。 ( No.43 )
- 日時: 2011/08/05 11:47
- 名前: 龍宮ココロ (ID: esqt3hj.)
- 参照: http://yaplog.jp/yukimura1827/
ウィィィン…とエレベーターの機械音が静かな空間にいる俺と臨兄の間に鳴り響いて通り過ぎる。
今、俺と臨兄はようやっとエレベーターの画面に表示された26階の所まで来ていたのだが…未だに止まる事を知らないように上へ上へと上がって行く。
その空間に俺は凄く飽きて、ようやっと声を出した。
「…臨兄、これ何階まで行く気なの?」
その声に反応した臨兄は少し眼鏡をクイッと少し指で上げた。
「飽きるのが早いよ、王我。これから幹部集会なのにね」
「だってこんな静かな空間とか機会音とか俺飽きたんだよ〜…」
「…まぁ、王我は静かにしてられない性質(タチ)だからね」
その言葉に俺はむっとすると、臨兄はクスクスと笑った。
本当、臨兄ってちょっと遠まわしに酷いな…まぁそれは俺の事を知り尽くしているからだろうけども。
「…臨兄って本当、謎の人だよなぁ」
ポツリとそう独り言のように呟くのにハッと我に帰って臨兄を見ると、臨兄は少し笑ってみせた。
「おやおや、王我はいつも俺の事をそう思っていたんだね?」
「え、あ、いや…その…」
ちょっと逆鱗に触れちまったかな。
臨兄の笑みは正直本当に笑っているのか、はたまたは裏があるのか分らない。
当然、目の前にいる臨兄の笑みは俺でさえ分らない。
チョンッと臨兄の右手の人差し指が俺の上唇に触れた。
急な事により少し俺は目を見開いた後、体がビクついた。
その俺を見て女の人だったらコロリとイチコロされ、虜にされそうな妖艶な笑みで口端を少し上に上げて囁く様な優しい声が響いた。
「—— ふふ、そう思うならちゃんと俺に言えば教えてあげたのにね」
「…へぇ、なら今教えてくれるの?」
少し俺自身、臨兄の妖艶な笑みに圧倒されながらも苦笑しながら言うと「今は時間がないから教えないよ」と言い返された。
うわぁ…言っておきながら教えてくれないって不憫じゃねぇの?
未だにお子様の俺には教えられない事がたくさんあるって言うのか?
まぁ、臨兄は俺よりも6歳くらい歳離れで俺の兄貴分で幹部筆頭だし。
あとはどっかの大手企業の社長で女の人でも男の人でも見惚れるほど群を抜いて美人だしな。
…凄く羨ましい要素ばっかり持ち合わせていて恨めたしいけども。
どうせそこら辺に転がっていた庶民とはかなり違うんだろうな、大金持ちって。
ふとエレベータの画面を見ると、もう39階に来ている。
40という表示になった後の瞬間、チンッと鳴ったのが聞こえた。
「もう着いたようだね」
臨兄はそう小さく言った後、エレベーターの扉が開いたのを見てから出る。
一瞬俺はちょっとポカンとしていると臨兄の声が聞こえた。
「王我、エレベーターの扉が閉まっちゃうよ?」
「わわ… !」
俺はちょっと慌てて臨兄の遅れが出ないように着いて行く。
さっき俺がポカンとしたのは、着いた40階の広間に少し驚愕していたからだ。
フロントのシンプルな色づかいとは一変して、この40階の広間は中国風みたいな感じで主に赤が多い。
そして、中国人らしき人達の数名の横を通り過ぎる。
「…なんで中国人がいる階に俺達の集合場所があるんだ?」
俺がちょっと不機嫌そうに声を漏らした。
「あぁ、そうか…。王我は中国人にちょっと偏見があったね」
臨兄は俺の言葉に思い出したように返した。
俺は別に中国人を嫌っているわけじゃない、ただ偏見癖があるだけの話だ。
だけど、中国人への偏見は俺は凄い強い方だ。
なんせ—— 俺の人生を滅茶苦茶に壊し、俺をどん底に落した奴が中国人だったからだ。
ズキンッと一瞬だが頭に痛みが走った。
治っていたはずの古傷が思い出しただけで蠢いている。
実は俺はあの時、その中国人に鈍器で殴られて一旦は生死不明の状態だった。
だけども、そんな俺はひょんな事にラッキーなのか俺だけは意識を取り戻した。
—— 両親は帰らぬ人になってしまったが。
ズキンッズキンッと少しずつだがますます蠢くのが早くなる。
「…大丈夫かい、王我。古傷が…痛むのかい?」
心配そうな臨兄の顔が見えて「…大丈夫、何でもないよ」と返した。
でもこれも嘘、何でもなくない…本当に。
そんな嘘を付いた俺に、臨兄は心配な顔で口を開いた。
「王我、幹部の皆には嘘を付いては駄目だと言っているだろう? 俺には見抜けないと思っていたかい?」
「—— !…そう、だね。臨兄には俺の嘘、全部見抜けるんだった」
唯一俺の嘘を見抜ける、臨兄と初めて会った時もそうだった。
そんな俺である赤の他人を受け入れてくれたのも多分今思えば臨兄だけかもしれない。
「…大丈夫だよ臨兄、俺はもうあの時じゃないし」
弱くて、怖くて、呪いたくて、世界を憎みたくて——。
武器に飢えて、血に飢えて、世界なんていらないと思って——。
あの時の俺をどん底に落したあいつが—— とても憎くて。
「…そうだね、王我は王我。あの時じゃなくて今ここにいるもんね」
少し臨兄は俺を撫でた。
「さぁ、行こう王我。もう時間がないからね」
「…分ってるよ」
後ろめたかったあの時、自分が嫌いでしょうがなかった。
弱くて、怖くて、呪いたくて、武器に飢えて、血に飢えて——。
その時の俺はただただ怯える事しか出来なかった。
だけど、今は——。
——あの時よりも強く“生きたい”と思っているから、ここに存在している——
第14話「Intention」