複雑・ファジー小説

Re: ゴッド・コードウルフ。 ( No.48 )
日時: 2011/08/20 21:27
名前: 龍宮ココロ (ID: a7B.qo42)
参照: http://yaplog.jp/yukimura1827/

「…チッ、胸糞悪ぃ」
警備員の帽子を被った後、近くのゴミ箱を軽く俺は蹴った。
さっきまであの臆病者で躾もされていないあの阿保に俺はつい声を掛けちまった。
掛けた理由は良く分らない、多分俺はあの阿保の王我にちょっとイラついていたのかもな。
あの顔でされるとマジで反吐が出る、だからこそ声を掛けた。
「…あー、性格上俺自身の大嫌いなんだよな」
小さい頃からお世話好きで何かと気にしたりするのがこんな所にも出ていて本当に嫌だ。
まぁ、その性格のおかげで良かった…というのもまちまちあるが。
「…もう、この幹部職も5年か」
ふと思えば自分のいる幹部職はすでに5年になっていた。
確かに俺も王我と同じ3年で幹部職に駆け上った奴であり、あいつの気持ちだって良く分る。
だが、あいつがこのマフィアに入った時から俺的に気にくわねぇ。
あいつ—— もとい王我が入った時、俺は幹部として色んな「ソルジャー(構成員)」と「アソシエーテ(準構成員)」を見てきた。
ある奴はボスになろうとしていたり、ある奴はただ自分の才能開花の為に利用したりしていたが…。

「たくっ…臨音といいボスといい…何であいつを可愛がるのかが分らん」

瞳の奥は憤怒を燃え盛り、心も何も無く復讐のために荒ぶる…そして幸運に恵まれながらも影に怯える。
そんな奴を臨音とボスは見抜いていて、幹部にするはずも無い者なのに可愛がり手中に置く。
それ位あいつに媚びている何かがあると言うのか?
それとも…—— あいつをただの道具として使っているのか。
「—— おっと、時間だな」
不意に時間を見ると警備の時間となる、一応警備員の変装してるし誰にもバレずに情報取れるしな。
気を引き締めて部屋を開けた瞬間、すぐに声を掛けられた。

「—— 今から警備の時間かい、紅真?」
「…お前は情報収集に行ったんじゃなかったのか、臨音」

俺よりも先に行ったはずの臨音が壁に寄りかかり腕組みをしていた。
「いやね、ちょっと忘れ物をしたんだよ。最近物忘れが酷いからね」
「物忘れのはず無いだろ、お前は幹部筆頭であり—— 俺の先輩だろうが」
俺の言葉を聞いた後、クイッと指で眼鏡を少し上げた。
「流石、紅真…だね。ご名答、俺は物忘れなんて一回もした事無いよ」
「その割には王我に『物忘れが酷い』とか言っていやがるんだろ?」
俺はため息を付きながらそう言うと、臨音はクスクスと笑った。
本当にこいつは俺がマフィアの入る前の時から今でも謎が多すぎる。
ただ分るのは…—— こいつは人脈も情報も結構持っていて弱みを握る残酷冷静なタイプだと。
少し眼を細めた俺に、臨音は思い出したように口を開いた。

「あぁ、そう言えばさっき本当にちょっと忘れ物があってね…。取りに行く途中で王我の横を通り過ぎたんだよ。その時の王我に—— 殴った跡の様な物が見えたんだよ、紅真は知らないかい?」
「知らないも何も…俺が—— 王我を殴ったとしたら?」

冷静な臨音が少しだけピクンと動いた。
やっぱり、こいつはあの臆病な奴に何か媚びている…。
自衛隊で学んだ直感は良く俺は当たる、臨音は何か王我に媚び付いているのは正解だろう。
少しだけ静寂な時間が流れると、臨音はため息を付いた。
「…紅真、君は王我よりも経験も豊富だがその短気を直してほしいほどだよ」
「…うるせ、今回は短気でも何でもねぇけど腹がたっただけだ。まぁ、どうしてそんなにも—— 王我を媚びているのは知らないが?」
臨音をジッと俺は睨みつけた。
だが一つも動じず、臨音はケラケラと笑う。
「…王我に媚びている? ハハ、幹部筆頭が弟分に媚びらないさ。ただ、王我は弱くて臆病で仮面を被った可愛い奴なんだよ」
「—— やっぱり王我の性格とか見抜いているんじゃねぇか、幹部筆頭さんよ。普通なら王我みたいな“弱くて臆病者な奴は幹部にしない”って言ったのはどこのどいつだ?」
その言葉を聞いた臨音は少し俺に対して眼を細めた。
「確かに言ったよ、だけど王我には秘めたる能力が存在する。俺は王我がこのマフィアに入って色々覚えてその能力を開花させたいんだよ。もちろん俺はそのつもりで王我を例え死に貶めても…育て上げる」
「じゃないと王我は甘えるんだよ」とまたため息をつけやがった。
確かに俺だって王我には得体の知れない何かの能力があると推測できる。
だが、その前にも…—— あいつは臆病すぎている。
「死に貶めても…ねぇ。あんた、この場に王我がいたら噛み付かれるぜ虐められているってな」
「そう言う紅真は何故王我にそこまで媚びているのか俺が知りたいね」
「何か興味でもあったのかい?」と付け足して。
俺はそれにちょっと息を詰まらせる。
あぁ、やっぱり性格なんて嫌いだな。
こう言われるのがオチなのに—— 媚びるようになっちまう。

「…別に。臨音は俺がお世話好きな奴だとは知っているだろ? 媚びているわけでもねぇが、王我よりも先輩の俺が気にしてもいいだろうが」
「ふふ、そうだね。紅真はそう言う性格で無視出来ないんだよね。なら、俺もそれと同じって事にするよ」
「チッ、…あの時の勧誘の時からお前の事よく分らねぇな」

舌打ちした後、警備の時間だった事を思い出して臨音に「…そろそろ俺は警備に行くわ」と言葉を残して立ち去った。

       ——媚びる理由はよく分らねぇと思ったが…臨音が一番よく分らねぇ——

       第17話「Mystery」