複雑・ファジー小説

Re: ゴッド・コードウルフ。 ( No.49 )
日時: 2011/09/07 16:04
名前: 龍宮ココロ (ID: dmgQ4onE)
参照: http://yaplog.jp/yukimura1827/

「…“媚びている”ねぇ」
紅真が行ったのを確認した後、一人になった俺はポツンと呟いた。
確かに紅真の言った通り俺は王我に“媚びている”。
だがその理由を漏らすわけにもいかない、だからこそあえて「幹部筆頭が弟分に媚びらない」と言っておいた。
「…察しが強い元自衛隊は本当に劣ってないねぇ、本当にビックリしたもんだ」
紅真が自衛隊を辞めてまだ2年しか経っていない、辞めた理由は勿論このマフィアの幹部職にちゃんと就任する必要があったから。
紅真の家族には未だに自衛隊を続けているように見せかけている、マフィアなどに入っているとなったら大惨事だろう。
だからこそ、紅真自身了承してマフィアの幹部だとは隠し通している。
「本当に…頭が痛いなぁ。最近考えすぎかな?」
最近、物事に色々詰まれていたせいか頭痛が激しい。
薬も飲んでいるがある意味ストレスが溜まっての頭痛っぽい。
「弱音を吐いている場合じゃないなぁ…けど、歳も歳だし…」
ちょっとおじさんくさい言葉を吐いてから苦笑し、ため息を付く。
もういつの間にか27だ、世間では「まだまだバリバリだろう?」と言われそうだが頭脳をフル回転にし人脈など有効活用とした情報収集、ましてや裏のマフィアの筆頭幹部となったら命が何個も欲しいほど。
「…ハァ、後で病院にでも行こうか」
頭痛が少しまたなってきたため、そう呟いてからその場を後にした。

———

「累、資料は集まっている?」
「はい、お嬢様。奴等の情報網は少なかったのですが、一つだけ網に引っかかりましたよ」
凛と声を張る私に、ニコリと累は笑って数枚の紙を私に優しく渡してくれた。
「奴等にはどうやら凄腕の情報屋がいるらしいですが、裏の裏をかいてやりました。ですが…どうやらプロフィールだけ取れただけのようです」
「それだけでも十分だわ、ありがとう」
そう言って私は数枚ペラペラと見ていくと、見覚えのある顔の写真に目が止まった。
ピタッと止まった私を気にしたのか、累が口を開いて声を掛けてくる。

「—— …どうしました、お嬢様?」
「あ…いえ、何でも…無いわ」

少し違和感がある余韻を残す言葉で返したのに累に感ずかれるかと思っていたが、累は少し笑って「…そうですか」と言うだけだった。
ピリリリ…と笑った累の胸ポケットから携帯の着信音が鳴るのが聞こえ、累はすぐに携帯を取り出して電話に出る。
「…もしもし。…えぇ、分りました」
ピッとほんの少しの間に簡単なやり取りをした後、累は私の方に少し笑って「すいません、少し仕事の後用事を済ませてきます…」と言ってきたのを見て、私は頷いた。
その頷いた私を見た後、静かに猫のように感ずかれないほどの気配を消して部屋から出て行った。
多分、累がさっき話していた相手は情報屋かあるいは私の組の者だとすぐに分る。
普段なら電話では少し長く喋る累だけど、情報屋や私の組の者には簡単にやり取りを済ませるものだから。
「それにしても…まさか、ね」
一人になった部屋の中、私はさっき目を止めた書類の一枚を取りマジマジと見る。
その書類の写真に写っていたのは——。

「隣の席…の、“魔斬王我”君が…—— 幹部だったなんて」

有り得なかった、あんな感じの彼が私が復讐しようとしている『ゴッド・コードウルフ』の幹部の一人だなんて…。
しかも隣と言う事は、私の正体を知って近付いているのだろうか?
「でも…そんな素振りは見受けられないし…」
もしかしたら、演技なのかと思うけれども彼自身からはそんな物は感じられず普通にただいる高校生。
ただ違うのは…—— 高校生でありながらも裏のマフィアの幹部の一人。
「…ふふふ、面白いじゃない。彼の驚く顔がどんな顔か見てみたいわ」
自分だってこの組の当主であり、彼と同じく隠している。
彼は思っていないでしょうね…—— 近くに、すぐ近くに喧嘩を振っているヤクザの者とは。
そう思いながら私は少し目を細め、書類に目を通していった。

———

レッドカーペットが敷かれている屋敷の渡り廊下を累は歩いていると——。

「—— 待ちくたびれたよ、猫かぶりさん」
「—— ! …ご苦労様です、情報屋さん」

近くの柱にもたれかかり、顔を見せないようにというようなくらい深くキャップ帽子を被っている少し背の低い子供っぽい声をした感じの人物がいた。
その人物は累の言葉を聞いて少し面白くなさそうに言った。
「チッ、いつもいつもからかっているのに何も咎めねぇの?」
「咎める必要は無いでしょう…これでも私は執事なので」
「フーン…素顔を隠した執事ねぇ…」とその人物は呟いた後、累は少し口端を上げて口を開く。

「それよりも何か良い情報を入手いたしましたか? —— “ハッカー・キャッツ”?」

累の言葉を聞いた人物はニィッと薄気味悪そうな笑みを垂らす。
「光栄だねぇ、素顔を隠した猫かぶりさんから俺のネーム覚えてくれるなんて。んまぁ、良い情報は入手したから安心しな。報酬は—— 高く貰うけど」
ニヒニヒと容姿とは似合わない下劣な笑いを見せた。
その笑う人物に対して累は笑顔を絶やさないで言った。

「分っていますとも、但し—— 貴方も戦争に参加してください。そうしたら高く報酬をやりますから」
「へぇ、いいぜ…乗ってやるよ」

少し考えた後、累に言って見せると累はさっきよりも口端をあげて少し何かを企む笑みを見せた。

         ——その笑みの意味を知る人物はいない——

         第18話「A plot」