複雑・ファジー小説

第二十五話『その柚子は、酸味が強すぎた』 ( No.105 )
日時: 2011/07/27 12:34
名前: 水瀬 うらら (ID: JNIclIHJ)

 時は中学生時代に遡る。仲の良い友達は、極一部だけど、いたかな。男子も女子も。
 何でそんなに少ないかって?
「ねぇ、水野さん」
 休み時間、ハイテンションで黒板に落書きをする男子達を、ぼけーっと頬杖をつきながら、眺めていたあたしに声がかかる。振り向くと、女の子がいた。腰まである長い髪。優しそうな面持ちな眼鏡少女。確か、名前は……。
「どうした?槻城つきしろさん、なにかあった?」
「いや……あ、ごめんなさい。その、何でもないです」
 槻城さんは俯きながら、必死にそう言葉を紡ぐと、足早に去っていった。
 何故ならば、あたしは、気が強すぎるから。
 だからきっと、クラスの連中には、あたしは上から目線なオトコオンナとして見られていること請け合いだろう。
 苦には、ならなかった。
 あたしにとって、『友達』はどうでもよかったから。

「ねーねーこのキーホルダー、どうよ!」
「うわ!マジ、かわいー!」
「きゃー!かわいー!あたしも欲しい!ちょうだーい!ちょうだーい!」

 遠くの席で、三人の女の子が大声でしゃべりあっている。
 『かわいー!』
 あの言葉は至るところで耳にする。そして、極めつけは、あの、造られた笑み。
 『友達』に合わせるように、偽る、あの姿。
「……滑稽だ」
 あたしは冷たく、吐き捨てた。

 嘘で塗り固められた、『友達』関係。
 有り触れた嘘。真実なんてどこにもありゃしない。
 そんな『友達』は…………要らないよ。

「柚子」

 不意に声をかけられ、肩をビクッとさせ、またもや振り返ると、そこには燈兎がいた。今日も機嫌が良さそうだ。
「どうしたの?そんなに冷めた顔しちゃって、柚子らしくないよ?」
 橙色のポニーテールが、揺れる。顔を覗き込む、ふんわりとした、笑顔。しっかりと目で話そうとする、その姿勢。
 あたしは、そんな燈兎が、他の『友達』とは違い、嫌いではなかった。
 隣のクラスになってしまったけど、関係は途絶えていない。
「あー今ね——」
 共に笑い合って、日々を過ごす。他愛もない話で、盛り上がりながら。
 そう、この、のんびりとした生活こそが、私の、学校での、日常だった。