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複雑・ファジー小説
- 第六話 『神様は、ふと悪戯を仕掛け始めた』 ( No.20 )
- 日時: 2011/07/02 12:14
- 名前: 水瀬 うらら (ID: 5iKNjYYF)
俺は、いつもよりも遅めの時間に、物月学園の昇降口を抜けた。
何故、遅くなってしまったのかと言えば。
つい数日前に校長室に呼び出され、そのときに衝撃事実を目の当たりにしたからだ。
おかげで俺は一睡も出来ないまま、朝を迎えてしまうことになり、現在、俺の目には、ものの見事に隈が出来ている。
でも、一睡も出来なかった、本当の理由はそれではないのかもしれない。
教室へと続く曲がり廊下の手前で、ふと立ち止まる。
本当の理由は……校長室で見かけた、あの樹のことだ。
若葉の生い茂った、楓。
…………まったく。なんでこの学園に、楓が植えられているんだよ……。
俺は苦笑を漏らした。
神様というものは、忘れようとしていた人のトラウマをわざと思い出させて、リアクションを楽しむのが趣味なのだろうか?
だとしたら、最悪、この上な
————————『慎君、僕は大丈夫だよ。大丈夫だから』————
「!」
突如、頭の中で響き渡る、記憶が創り出した、小さく、けれど、どこか強調された声に、俺の顔は強張った。
そして、やがて心は後悔という名の暗い色で塗り潰されていく。
記憶が色鮮やかに映し出すのは、
屈託のない笑顔と、語りかける者に安心感を与える、穏やかな声。
……草太……
強く目を瞑る。怒りや悲しみで心がごちゃ混ぜになりそうになった、 その時、
「ぐはっ」
俺の鳩尾に、鈍い痛みが走った。
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