複雑・ファジー小説
- 第八話『人は、他人に指摘され初めて気づく』 ( No.33 )
- 日時: 2011/07/05 17:38
- 名前: 水瀬 うらら (ID: JNIclIHJ)
「あはははは!いやぁ、これは、ヤバいなあ!」
「ちょ、ちょっと柚子、何してるの?」
「見ての通り、事実確認だねっ。みっちょん、オレも混ぜて!」
「宮城君、貴方には聞いてないから」
俺が、教室のドアに手をかけようとした時、ふと中から水野さん達の話声が聞こえてきた。
一体、何の話をしているんだろう。
そう疑問に思った俺は、
例え、今のタイミングで教室に入っていったとしても、気まずい雰囲気をもたらしてしまうだけだと察し、
ドアを開けようとしていた手を下し
「何って?このシノっちの点数、見てごらん!」
たが、思いがけない一言を耳にした俺の手は、反射的に教室のドアを開けていた。涼しい風に、俺の身体が包まれる。
教室には、水野さん達の他にも数人、生徒がいたが、俺が入ってきたことにも気づいていない様子で、自身の話に盛り上がっていた。
「……あ、篠原君。私……」
「おんやまぁ、話の中心となる、主人公の華麗なる登場だ!」
霧島さんは、自身の席で本に詩織を挟もうとする手を止め、俺を凝視してきた。このタイミングでの俺の登場は予想だにしていなかったと思っているのが、見て取れた。
そんな霧島さんとは逆に、水野さんは、霧島さんの隣の席の、椅子の上で上履きを履いたまま、しゃがみ込みながら、、「そろそろ来る頃だと思ってた」と軽く笑って、この場の雰囲気を取り繕った。
だからこそ、この雰囲気を壊してはいけないのだ。そう頭では分かっていても、
俺はに聞かなければならない、真実がある。
口を開く。
「そのテストについて、詳しく聞かせてほしいんだけ」
「シノおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
いきなり、どこからともなく現れた蓮が背後からヘッドロックを仕掛けてきた。く、苦しい。
「なな、なんだよっ急に」
息も絶え絶えに聞いたが、蓮は俺のリアクションを完全無視と決め込んだらしく、攻撃態勢を解き、ある物を俺に「問答無用!」と、突き付けてきた。って、それ!
「……これはっ、俺のテストじゃないか!なに勝手に見てんだ!」
「あのなあ、お前っ、なんで九十八点なんだよおおおおおおおおおおおおお!」
鬼のような形相で叫んだ蓮に対して、俺は心底、嫌な顔をすることしか出来ない。
「耳元で、叫ぶな。五月蠅いから。そしてもう少し落ちつけ。別に大したことじゃないだろ?」
半目になりながら腕を組み出す、俺の素っ気ない態度に、蓮の怒りは倍増していき、叫びは、もはや獣と化している。
「まあまあ、宮城も冷静に、冷静に!人生、こう前向きに行けやしないのかね」
「でも、柚子。知り合いが学年主席だったら、嫉妬する馬鹿の一人である宮城君も、あながち、人間味に溢れているかもしれないじゃない」
「フォローしているようでしてないね、燈兎さん」
「え?霧島さん、今、何て言った?」
蓮の嘆きをスルーしながら、俺は眉根を寄せた。
おかしいな、今、霧島さんの発言の中に、聞こえてくるはずのない言葉が混じっていたような。
霧島さんは、「知らないんですか?」と驚愕を露わにした。
「篠原君、入試のテスト、学年トップだったんですよ」
「んな……それは間違いですって、だって、俺、ちゃんと一問、間違えましたし」
自分を指指して、信じられないという素振りを見せていると、
「まるで、シノっち、わざと間違えたかのような、言い草だね」
「シノおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!お前、絶対、わざと間違えやがっただろおおおおおおおおおおお」
「目立ちたくないしさ、当然だろ」
「結局、目立ってるんだよ!」
「え」
蓮は窓に向かって走っていき、大声で空に吠えた。数分後、ようやく落ち着いたのか、蓮はゆっくりと、語り出す。蓮の右手がぷるぷると小刻みに震えているのを横目に、俺は蓮の話に耳を傾けた。
「あのなぁ……。テストで百点をとるような天才は、最初から、気づかないうちに女の子達に線引きされてるんだよ。『この人とは生きている世界が違う』ってな。だけど、九十八点をとったお前の場合、少なからず、間違えたことによる、人間性を感じるだろう?そうするとなぁ、女子たちの考えは軽蔑から、羨望へと変わるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「つまり何が言いたい?」
「お前を成敗することが、この世のためであり、俺が幸せを掴むための使命なんだ!うぅ、俺の夢のナンパライフがあああああああああああああ」
「『嗚呼、こうしてまた一つ、少年たちの夢が儚く散っていった』」
「その台詞じみたところは、どこで学んできだの?」
「ん?趣味だよ趣味」
くくくと笑う水野さん。
それよりも、俺は、また一つ、目立ちの階段を上がってしまったのだろうか。
俺は落胆する。
それを見ていた、水野さんは、にやっと危険な笑みをする。そして、水野さんは、自身の腕を霧島さんの肩に回して、こんなことを言い出した。
「なぁ、燈兎よ。面白いネタでも教えて進ぜようか?」