複雑・ファジー小説
- 第十四話『もう一人の患者』 ( No.65 )
- 日時: 2011/08/13 21:43
- 名前: 水瀬 うらら (ID: JNIclIHJ)
「「「「…………………………」」」」
ドン引きである。初めて会った人に、青春をしてるか否かを問われるとは……。大した度胸のあるお方のようだ。
「……えっと、どちら様ですか?」
俺が取り敢えず聞いてみたら、蓮が目にもとまらぬ速さで、走ってきた。
そして俺を「知らないのかよ!お前」と、顔を引き攣らせながら、叫ぶ。
「柊祢烏だよ!この学校の保険医!男子に超人気なんだぞ!」
………………すみません、知りませんでした。
だから、その見下すような視線は止めてください。辛いです。
「そこのチャラ男、嬉しいよー先生」
「チャラ男……ショック」
打ちひしがれた蓮は、もう見慣れている。
「ねぇ、青春してるかい?」
「蓮、仕方ない。お前のヘアースタイルは確かに奇抜だ」
「ねぇ、そこの根暗!」
「え、俺ですか!」
指差され、額から汗が伝う。
艶めかしい雰囲気を醸し出している柊先生は、頷いた。
「そうだよ、お前だよ。そこの根暗!青春してんのかどうか聞いてんの」
「…………いや、してませんけど」
ていうか、根暗……って。
地味に凹む。
「してない、だって?」
柊さんはそんなことなどお構いなしのように、溜め息をついた。
「んなら、とっとと出てけ」
「仮にも保険医ですよね!?」
思わず、悲鳴じみた声をあげてしまう。
しっしっと手で追いやる、その行動は、動物に対してやるものでしょう?
「は?キミー何言ってんのさ?分かってないねぇ」
やれやれと首を横に振られた。
「保険医であれ、なんであれ、ここはあたしの領地なんだ。いいかい?決めるのは、あ、た、し」
「滅茶苦茶な!」
ウィンクはよしてください!まるで、物分かりの悪い子供に、熱心に物事を教えている、先生みたいじゃないですか!
「祢烏せんせーい。一応、言っとくけど、シノっちは病人だぜ?」
水野さんが手を挙げた。
「だから?」
問いを問いで返されるって、何なのだろうか。
「柊先生、私が倒れたときにはそんなこと、言わなかったじゃないですか。」
霧島さんは俯いた。
そうか。確か霧島さんは以前、ぶっ倒れたことがあるから、柊先生と面識があるんだった。
「良いんだよ、霧島ちゃんは」
「え」
「あたしは、全国の女子の味方だ。安心しな。お望みなら、そこのチャラ男だって、断罪してみせるよ」
いかにも、キラーンと効果音が出そうな、一言である。ついでに言うと、どうやら、蓮は処刑対象にあるらしい。
え、っと。こういう、女の子を大切に扱う人。
なんて言うのだか。忘れてしまった。
俺は顎に手を当て考え込む。ベッドの上で、かがむのって、結構、腰にくるんだな。
「フェミニスト的なポジションは宮城と同じだけど、敵同士だねー。見てて、面白いわー」
「そうそう、フェミニスト」
水野さん、既に観戦モードに入っているのは、どうかと思う。
「——たくぅ、もうぅ」
柊さんは、心底嫌そうに顔を歪めた。
「一学期早々、三人も患者が出るとはねー。ほんと、ツイてないわぁ。いっちょ、お祓いでもしてもらおうかなー」
「三人?」
俺は眉を寄せた。患者が出たことに対して、お祓いをしてもらおうとしている柊先生の爆弾発言は、敢えて無視する。
「一人は燈兎だよね、んでもう一人は、シノっち。じゃぁ、後は誰でしょう?問題です、シノっち」
「なんで水野さんに問題を出されているんだろう」
普通、この展開では、柊先生が出題するはずだ。
「いいからいいからー」
「分からないわ、柚子」
「……燈兎は答えなくていいんだよ」
霧島さん、いつでも真面目……。顎に手を当てて考える姿は、絵になっていて綺麗だった。
それにしても、後の一人は、誰なんだろうか。