複雑・ファジー小説

第十五話『見かけからは感じられない事情がある』 ( No.76 )
日時: 2011/08/13 21:53
名前: 水瀬 うらら (ID: JNIclIHJ)

「吾妻廻だよ」
 柊先生は、ケラケラと笑いながら切り出した。
「吾妻……って」
 俺は心当たりがある。あの、俺に告白してきた、女の子、或の兄だ。
「どうして、或ちゃんのオニイサンが!」
「蓮、そのイントネーションは、不気味だ、やめろ」
 両手に手を当てて、オーバーリアクションをする蓮を見て、俺は思わず、げんなりした。
「廻は心臓が弱いんだ」
「だからぁ、あんなに走り回るのは、本来、駄目なんだよねー」
 柊先生と水野さんがタッグを組んで説明する。
 ……廻、あんなに、元気なのに……。全然、気づかなかった。

「———吾妻ちゃんに、心配掛けたくないんだろうね」

 俺は、言葉が出なかった。
 心配掛けたくない。
 この気持ち……。
 ————草太、お前もそうだったのか?

「こーゆー、湿気った雰囲気は苦手だ!ほら、根暗ども、とっとと、出て——」
 保健室の扉が静かに開いた。

「——祢音先輩、これはどういうことですか」

「————けって、あれ?珍しいね、忍ちゃん。まさか、このあたしと密会を……」
「———冗談は程々にしてください。私はただ、祢烏先輩が、きちんと自身の仕事を行っているか、見回りに来ただけです。」
「残念だなぁ、お姉さん。」
 柊さんの爆弾発言はともかく、そう、現れたのは、他でもない、忍先生であった。
 今日は紅い、洋風な服を着ている。下は、薄い生地の、歩きやすいスーツ的なズボンを履いている。三センチほどの高さのヒール付きのサンダルを装着。
 知的美人と、改めて実感した。
「相変わらずクールだねぇ。そんなんじゃ、男にモテないよ?忍ちゃんてばさぁ」
 柊先生は、面白そうに、ニヤッと笑った。
「お爺様ではなく校長先生のことで、手一杯なのです。」
「あぁ。あのジジイ、確かに手ぇつけらんないね」
「侮辱しないでください。許しませんよ」
 このままでは、忍先生の手により、保健室に血の雨が降りそうだったので、
「鴻知お爺さん……ということは、もしや、お知合いなのですか?」
 霧島さんは慌てて、話を摩り替えた。ファインプレイ!
「良い質問だね、霧島ちゃん。あたしと忍ちゃんは、従姉妹の関係なのさー」
 ……従姉妹、にしては、仲は随分と険悪そうである。
 忍先生は、話を戻そうと、咳払いをした。
「話が逸れました。つまり、私は校長先生のサポートが最優先ですから、男性とのお付き合いは視野に入れていません」
「食えないねぇ」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええ」
 蓮の叫びで、鼓膜が破れそうになった。