複雑・ファジー小説
- 第十六話『スピーカーの恐ろしさを、未だ君は知らない』 ( No.77 )
- 日時: 2011/08/13 22:01
- 名前: 水瀬 うらら (ID: JNIclIHJ)
「そんなあああああああああああああああああああああああああああ」
「一年二組、八番、宮城蓮さん。ここは保健室です。断末魔のような叫びは止めてください。」
「……すみません」
そりゃ、言われるだろう。
「宮城ってばー、この世は残酷だ的な泣きの手前はよしなって。男だろう?」
「みっちょーん……俺、今、鬱かもしんない」
鬱になっている全国の皆さんに謝れ、お前。忍先生にフラれたからって、鬱になるな!
「何で鬱になるのか、分かりません」
「人には誰しも、理解してもらえない時ってあるんだな……」
床に突っ伏した蓮は、ぼんやりと呟いた。
突然、なにかスイッチを入れる音が響く。一斉に音のした方向を見ると、そこには金属製の校内スピーカーであった。
「なんだなんだ?」
柊先生は、言葉の割に、大して驚いた素振りを見せず、ただ、眉を釣り上げていた。
耳を澄ますと、ノイズの中に微かに物音がする。
『——ちょっ、なにするんですか!先生!』
『まーまーいいでしょう?すでにスイッチは入っているんですし。』
『でも、バレたら、俺、多伎谷とあの先生に、ぶっ殺されるんですけど!』
『面倒臭いですが、骨は拾ってあげましょー』
「……この人達の話題から校内放送が逸れて言っているのは気のせいですか?」
俺は、顔を引き攣らせる。水野さんは、それが放送の醍醐味だよと、うんうん横で頷いていた。霧島さんに至っては、目が点のようになっている。状況が把握できていないのだろう。まぁ、俺も例外ではないが。
『さて、えーと、全校生徒の人に連絡です』
聞きなれた声だ。これは……。
「白井先生、どうなされたのでしょうか?」
霧島さんは、首をかしげた。
『えー本日、体育の授業中に倒れた……』
直感が働く。これは、不吉の前兆だ。
『篠原君のことですがー、皆さん、温かい目で見守ってくださいねー』
「白井先生いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
俺は両手に拳を作り、雄叫びをあげた。
温かい目なんていりません!名指しはやめてくださいいいいいいいいいいいいいいい!
目立つのは嫌だあああああああああああああああああ。
だが、白井先生に、俺の悲痛な想いが、届くはずも、ない。
『皆さんー篠原君に逢ったら、送ってあげてくださいねー』
終わった。
俺は茫然と、膝から崩れ落ちた。嗚呼、生気が抜けていく……。
——ピーンポーンパーンポーン
無機質な電子音が、俺の耳を通り過ぎていった。