複雑・ファジー小説
- 第十九話『最終兵器は強し』 ( No.86 )
- 日時: 2012/03/13 16:59
- 名前: 水瀬 うらら (ID: G0MTleJU)
「ちょっと待ってください! 水野さん」
「敬語は止めてくれって、シノっち」
「話をややこしくしないでください!」
水野さんは、「やれやれ」と首を横に振った。
「あたしの言っていることは、極々簡単さ。ウチに入れて」
「お断りします!」
俺が「有り難うございました」と玄関の扉を閉めようとした瞬間に、自身の片足を扉の間に入れて閉めるのをブロックするだなんて……思いもしなかった。
「んーどうしても無理?」
「はい!」
そう力強く頷くと、『じゃあ、最終兵器を送り込もう』とばかりに水野さんは俺に背中を向け数秒後、ある人を交渉人として引っ張り出した。
「えっと、あの、その」
霧島さんである。
「私、篠原君のことが心配なんです。どうか、入れさせていただけませんか?」
上目遣いで弱弱しくお願いするその姿は、蓮に言わせれば『愛らしい』感じである。
「う……」
「シノの始末は後のお楽しみ! ということでさぁどうぞ。みっちょん」
「その『レディファースト』精神、マジ引くわ」
うろたえる俺を他所に、俺の腕の下からよいしょといとも簡単に自宅に侵入される。
「広いなー相変わらず」
蓮は妬みなのか、そうぼやきながらリビングに置かれたダイニングテーブルの椅子に腰をかけた。
「病人の方に食べさせて良いものって、何でしょう?」
「さーねー」
「水野さん、病人という名の俺の手助けに来たんじゃなかったんですか?」
「そんなことあたし一言も言ってない」
「うわぁ……鬼畜」
「なんか言ったかい?」
「いえなんでもないです」
「そう。ならいいや。————あぁ!? しまった!」
水野さんはその場で文字通り地団太を踏んだ。
「ノート、買うの忘れてた!悪い、燈兎!一緒に来て!」
「あ、うん!」
「飯、作っといてええええええええええええええええええええええええええええええええ」
俺が事態に気づいた時には、玄関の扉は破れんばかりに音を立てて閉められていた。