複雑・ファジー小説

第二十話『いつしか、判明されるだろう事実』 ( No.87 )
日時: 2011/07/25 12:40
名前: 水瀬 うらら (ID: JNIclIHJ)

「……行っちゃったよ、水野さん」
「あーいう女の子、って何て言うんだっけか?」
「…………天真爛漫、じゃないだろうか」
 蓮は、しばらく玄関の方向を見つめていたが、やがてじっとすることに飽きたのか、
「なぁ、メシ、作らねえ?」
 我が家の台所に、我が物顔でドスドス入っていった。
 至って普通の日常のように、冷蔵庫を開けられる。って、おい!勝手に開けんな!
「なんか、食べ物いねがー」
「なまはげと趣旨全然違う」
「んーカレーかなーじゃがいも、人参、玉ねぎもあるし」
「……主夫みたいなことをぬかすな、……まぁ、水野さん、夕食、用意しとけって言ってたしなぁ……なにかしら作らないと……」
 軽く自分の頭を押さえた。何故、病人が夕食を作らねばならないのか、大いに疑問である。霧島さん、突然の出来事で、ツッコんで、くれなかったし……。
「おーい、早く、作ろうぜ」
「はいはい、分かったよ」
 おざなりな返事をした後、俺は二階にいき、自室にある、黒いシックなエプロンを装着して、キッチンへ戻った。
 すると、
「やっぱ、料理出来る男子は、モテんのかな」
 俺のエプロン姿を半目になって、にらんでいた。どうしたら女の子にモテるか。コイツは四六時中、研究しているらしかった。
「知るか、そんなこと」
 俺が手を叩いて、クッキングに意気込んでいると、「頑張れ—」と蓮が口に両手を当てて、拡声器のようにし、エールを送ってきた。
「え、お前、作らないの?」
「ふっ、オレはたまにはお前を立てようかなと思ったまでだ!」
「素直に作りたくないって言えよ」
 俺の額に血管が浮き出そうになっているのは、恐らく、気のせいじゃないだろう。
 流しの下の引き出しから、包丁を取り出す。そして、野菜の皮を剥き始めた。
「それにしても、変わらないな。この家は」
「は?」
 辺りに野菜を刻む音が、テンポよく響き渡る。くっ、人参が、ちょっと硬い。
「前も、こんな感じで、草太と一緒に殴りこんだっけ」
 鶏肉を一口サイズにぶつ切りにしようと、腕にこめていた力が、極端に弱まる。
「?シノ、どうし……」
「な、殴りこんではいないぞ。草太は」
 同様を隠されないよう、俺はごまかした。蓮と、なるべく目を合わせないようにする。
 ————そう、草太は、ここによく、遊びに来ていた。といっても、蓮に無理やり、連れてこられて、だが。
「アイツ、どうしてんのかな……今」
 懐かしむようにポツリと言った、蓮の一言に、俺は、口をつぐんだ。
 言える、訳がない。
「さ、さぁさぁ、料理を始めますかね」
 俺は少しどもりながら、フライパンに火をつけた。
 蓮の不審な視線を浴びながら。