複雑・ファジー小説

第二十一話『カレーライス』 ( No.88 )
日時: 2011/07/25 12:43
名前: 水瀬 うらら (ID: JNIclIHJ)

「意外と早く出来たなー、よく出来ましたよく出来ました」
「お前のせいで大分遅くなったんだ、これでも。いつもより」
「え?オレが眩し過ぎて?」
「……」
 ダイニングテーブルに四人分のスプーンや取り皿を用意する。
「あ、蓮。下にテーブルクロスを敷いといて」
「なんで」
「じゃなきゃ、食べるな」
「喜んでやらせていただきます」
 つくづく薄情な奴だ。
 ————ガチャ
 玄関の扉が開く音が聞こえる。鍵は開けておいたし。
「おぉ、みっちょん!燈兎さん!お帰り!寂しかったよ!」
 蓮が玄関の方に向かって、叫ぶ。
 ——「寂しかったって……あぁ、寒いぜ」
 ————「仕方ないよ、変態だから」
「俺に向かって、愛を叫んでいる全国の女の子!ありがとな!」
「誰も愛なんて叫んでないぞ、おい」
 靴を脱ぐ音。続いて、走ってくる音。
「よっしゃー!飯!」
 ビニール袋を手に提げながら、足で急ブレーキをかける、水野さん。フローリングは滑るからなぁ……。
「みっちょん!今日はカレーだよ!」
「待て。その言い方は、作った張本人である、俺が言うべき台詞だ」
「…………………………………………カレーだって?」
 なにかが落ちた音が聞こえる。振り向くと、水野さんがビニール袋を落としていた。顔面は、蒼白である。先程の笑顔は、消え失せた。
「みっちょん、カレー嫌いだった?」
「………………カレーだって?」
 水野さんは何故か、自分に言い聞かせるように、呟く。心なしか、左手は拳を作っていた。震えている。
「柚子」
 心配そうな顔の霧島さんが、水野さんの肩に手を置くと、水野さんは、なにかを頭の中から追い出すように、激しく首を横に振って、また、向日葵のような明るい笑顔を浮かべた。
「ん!なんでもないよ!カレー、大好き!さ、食べよー!」
 ……霧島さんは、そんな水野さんを、辛そう顔で、見つめていた。