複雑・ファジー小説

第二十二話『人は……秘密を持つ』 ( No.89 )
日時: 2011/07/25 12:46
名前: 水瀬 うらら (ID: JNIclIHJ)

「もぐもぐもぐ……うまっ!おいしいよ!シノっち!」
「凄く美味しいですね!」
「有り難う」

「……うわぁこれ、滅茶苦茶まずーい。凄いまずーい。なにこれー料理じゃねえよなー」

 高評を俺に博する水野さん達を見て、むすっとわざとらしく、大きな声でしゃべる、蓮。そんなに女の子に褒められる男が憎いのか。
「あーあー、楽しくねーな—」
「お前はクレーマーか」
「お、面白そうなもの、発見」
 蓮がリビングの隅の引き出しの上に乗っている、写真立てに目を止める。スプーンを置いて、歩み寄り、手に取った。
「これ……俺たち三人の記念写真じゃんか」
「三人?」
 水野さんは聞き返す。そうか、水野さんたちには、話していない。……半ば、複雑な気持ちになる。そんな俺に気づかず、蓮は写真を指差した。水野さんが、写真を覗き込む。
 俺が座っているところからでも、見える。そこには、少し幼く見える、俺たちの姿が写っていた。家の前である。太陽が差し込んで、綺麗なその写真には、俺と草太の肩を無理やり、真ん中に立って、組み合う、蓮の姿。俺は嫌そうな顔をしている。
「この、童顔の男子は?」
 水野さんが、指をさす。
「みっちょん、コイツはね、草太って言うんだ。恥ずかしがり屋でさ」
 草太は……慌てふためいている。
「そういやぁ……昔は、ソウって呼んでたな」
「へー。」
 霧島さんは、しゃべり合う蓮達を、どこか遠い目で眺めていた、
「なぁ、ソウ、元気?」
 こちらを振り返る、蓮の何気ない一言。
「……」
「ん?」
「……今は、食事中だ。また今度な」
 そう紛らわすことしか、出来なかった。