複雑・ファジー小説
- 第二十四話『止まない、雨』 ( No.97 )
- 日時: 2011/07/26 11:47
- 名前: 水瀬 うらら (ID: JNIclIHJ)
大粒の雨が滝のように、激しく降っている。道路には既に何箇所か、巨大な水たまり
が出現している。
傘を差しているというのに、あまり意味がない。台風の前触れなのだろうか。
俺がとある交差点まで、蓮と走っていると、
「くそっ……どこにいるんだよ。燈兎。」
傘も差さず、全身、ずぶ濡れになりながら、手で水滴を拭っている、水野さんを見つけた。
「みっちょん!」
蓮がゆっくりと水野さんに歩み寄る。
「……ん?宮城、なんでここに」
「俺らも、霧島さんを探していたんです」
俺が、はっきりそう告げると、水野さんは、恥ずかしそうに、頭を掻いた。
「悪いね、シノっち」
「気にしな……」
トゥルルルルル……
水野さんの着ている制服のポケットから、電子音が響く。水野さんは顔色を変えて、すぐさま、携帯電話を取り出した。ボタンを押す。
「——はい、水野。——いないです、か。分かりました。迷惑をかけて、すみません。では」
水野さんは携帯電話のディスプレイを閉じた。
「どうしたんですか?」
「あぁ……あたしの元いた中学校に電話してみたんだ。いない、ってさ。」
水野さんは、溜め息をつく。俺は、どうしたらいいか分からなくて、自分の傘を差しだそうとした。が。
「もしかしたら、あそこにいるかもしれない!」
水野さんは突如、横断歩道に向かって、走り出した。
「……約束したんだ!あたしは……あたしは……あいつと!」
「みっちょん!どこ行く気さ!」
蓮とともに、後を追う。走るのに邪魔なので、俺は、走りながら、傘を閉じた。折り畳み傘にしておけば……と今更ながら思った。
「燈兎、ここにいたんだね」
「柚子……」
霧島さんは驚いていた。紺の傘を差しているところを見るに、ずっとここにいたらしい。
「まさか、この学園の屋上にいるだなんて、思いもしなかったよ」
水野さんは、「昇降口の靴まで、こっちに持ってきてたから、気づかないしね」と意味もなく、自身の肩についた、水滴を払った。
そう、今、俺たちは、物月学園の屋上にいる。誰も、こんな土砂降りの日に、屋上へだなんて行きたがらないから、発見に時間がかかったのである。
風の吹き荒れる、ここは、危険だ。直ぐに校内に入った方が身のためだろう。
そう言おうとしたが、生憎、水野さんに静かに手で制された。
霧島さんは、どんよりとした灰色の雲を、見つめていた。
「ねえ、柚子」
「……」
「あの日も、こんな感じだったよね」
「…………そうだな」
水野さんは、片手で拳を作る。昨日、夕食のメニューがカレーライスだと知った時の水野さんを見つめていた、霧島さんのように。どこか、辛そうな顔で。そして、語り出す。
————雨はまだ、止みそうにない。