複雑・ファジー小説
- Re: 未来への脱出 ( No.1 )
- 日時: 2011/07/02 12:18
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: arQenQl7)
〜二話目〜
前回の話
突如現れた戦闘機。記憶を取り戻すためにも逃走を図るみたいな?
・・・・・・・・・・
「オイ、そこの奴。どっか良い隠れ場所知らねえか?」
走りながら横にいる少年に話しかける。
そいつは、まだ俺のことを信用しきれないようで、
下を向いて黙ったままだ。
「地元の奴なら防空壕ぐらい知ってるだろ?
そこに連れて行って欲しい。安心しろ、
お前を裏切ることはしない。俺は今記憶が一切無いから
誰かの助けが必要なんだ」
記憶が無いと言ってもそんなこといきなり信じる人間は
中々いない、多分体張って守るぐらいしないと信用なんて得ることは・・・
「分かった。付いてきて」
・・・予想外にあっさり出来た。
まあいい、道案内してくれるんなら全力でサポートするだけだ。
チラと空の兵器に目を向ける。
その前に一つ確認しとくか。
「今、何時か分かるか?」
「兄ちゃんそんなこと聞いて意味あんの?」
「いいから言ってくれ」
「十二時はとっくに回ってるよ。太陽が南より西側にある」
「そうか、ありがとよ」
どうやら最悪の事態は免れている。
三機もあれが飛んでる時点でその心配は無いのだが
もし本当にあいつが来たら逃げても無駄だからな。
ズンッ!!
突然自分の影が前面に照らし出されたかと思うと
地面が真っ赤な光に包まれた。
そこは本当に光に包まれているだけだったが
後ろはそれどころではなかった。
後ろは、初めに目を覚ました時に見た
民家のような状態になっていた。
唯一違う点は、うっすらチロチロと見える
紅炎が、もうもうと立ち上る黒煙に覆い隠されていることだ。
「もう追いつかれちまったか」
言うまでもなくそれは爆弾が爆発した後だった。
もう追いつかれたと危機感を感じたその時だった。
すぐに戦闘機から逃げる方法を思いついたのは。
「坊主、引き返すぞ」
俺がそう言うと少年は不審そうな顔をした。
「いいの?もうそこまで迫ってるんだよ」
「大丈夫だ。向こうからこっちは見えてても点見たいなもんだ。
いてもいなくてもあんまし変わらん。
あいつらは家を次々と倒してるだけなんだから。それに・・・」
「それに何なの?」
「あのスピードだ、俺達がくっちゃべってる間に多分もう追い抜かれた。
あんな超高速で飛んでたら俺達に気付いてもそうすぐにターンできない。
一旦引き返して向こうに逃げた方があいつらいなくなって安全」
「兄ちゃん賢いね」
そう言うや否や少年はスピードを落とすことなくターンする。
それに合わせて俺も方向を変える。
さっき確認した爆発物を避けて俺たちは走りだした。
「あっち側なら僕らの集落がある。逃げる手伝いをしてくれたお礼に案内するよ」
そうして、その後その集落に着くまで一機も戦闘機は見かけなかった。
三十分後、集落の入り口にて。
「着いたよ」
少年と共に民家の立ち並ぶ集落に到着すると、
大人たちが一斉に出てきた。
「無事だったかい?勇次」
最初にその子に話しかけたのはお母さんらしい女性だった。
そして、この子の名前は勇次と言うらしい。
「うん、この人に助けてもらったんだ」
勇次は、これまでの経緯をみんなに話した。
それを聞くと、そこにいた者は全員頭を下げた。
「うちの者を助けていただいた者よ、礼を言う」
その場を代表して、一人の老人が俺の前に現れた。
そして、長たる雰囲気を放ち、厳かに礼を言った。
「お主、名は何と申す?」
そう聞かれても俺は名前なんか覚えていない。
記憶が無いのだからそれも当然だ。
「そんなのいいじゃん、とりあえず兄ちゃんありがとな」
—————ありがとう、優しいお兄ちゃん
「つっ!」
いきなり頭に激痛が走る。
何がどうなっているかさっぱり分からないまま、頭を抱えて
そこにしゃがみこんだ。
何だ、今の声は・・・
聞いた記憶は無くしているが、明らかに聞いたことのある声。
しかし、どこの誰の言葉で、いつ聞いたかがさっぱりだ。
しかも何よりも、ありがとうと言われたのに
なんだか胸を抉られるような不快感を覚える。
すぐに分かった。
これは俺の、記憶の断片。
ようやく記憶が戻る兆候が見えたというのに、気分は複雑だ。
果たしてこの記憶は思い出すのが吉なのだろうか・・・
「どうした、若者よ?」
「ええ、すみません。俺、記憶喪失で、自分についての何もかもが分からないんです」
「そんなことがあるものなんじゃな」
長老と思われるその翁は、ゆっくりと頷いた。
「ところで、今は何年の何月何日で、ここはどこですか?」
さっき勇次にした質問をもっと細かいところまで聞いてみる。
もしかしたら、ここは危ないかもしれない。
「ここは広島。昭和二十年の八月五日だよ」
一番恐れていた答えに近いものが帰って来た。
続く