複雑・ファジー小説
- Re: 未来への脱出 ( No.2 )
- 日時: 2011/07/02 22:15
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: arQenQl7)
〜第三話〜
「・・・ヤバい」
俺がそう言うと、一斉にみんなが振り向いた。
ただ、自分が思っていたのと若干違う意味で反応したのだが。
「ヤバいってどういう意味?」
「大変だってこと」
知識だけが残っていて良かった。
そうじゃなければ記憶を取り戻すなんて到底不可能。
明日、何も知らないまま文字通り消し墨と化していただろう。
「・・とる・・・ーイが来る」
「えっ?何って?」
「原子爆弾が、アメリカの最終兵器が、『リトルボーイ』が来る!!」
原子爆弾、あの悪魔の兵器は二十万という人間を
吹き飛ばし、町一つ粉砕する威力を持っている。
今すぐにでも逃げないと・・・
「何じゃ、原子爆弾とは?それに神の子孫たる天皇の統治する我が国は
多少の兵器には屈せん」
多少じゃないから問題なんだ。
しかもこの時代は天皇や軍隊を崇拝している。
敗戦のことは告げずに、危ないということだけ
伝えておくといいだろう。
「原爆は・・・人間の作った、人間に対して使った兵器の中で、
一番強力で、悲惨な兵器です。早く京都にでも逃げないと、
みんな・・・」
そこまで言った時、そこにいた者の目に、
ほんの少しの不信感が現れ出た。
自分は確かに少年の命の恩人だから、信じてもらっているようだが、
記憶喪失者の話す、全く信憑性の無い話は
妄言としか聞こえていないだろう。
「そう言われてものう・・・」
案の定、自分が言ったことを信じていいのかどうか決めあぐねるような表情になる。
いきなり現れた他所者のいうことばなのだから、尚更だ。
「京都が一番戦火が穏やかだったらしいです。重要な歴史的建築物が多く、
連合国軍もあまり攻撃しませんでした」
連合国軍、そう言った瞬間、また頭に激痛が走った。
今度はさっきほど強くなかったのと、二回目だったのとで、
顔をしかめる程度で終わった。
—————OH MY GOD!一般人ヲ巻キ込ンデシマッタ!
外国人のカタコトが闇の中で大きく響くだけの
ビジョン(記憶)が見えた。
一体あの声は誰の・・・
「何にせよ、俺は今から京都に行きます。みなさんも後から追い付いて下さい」
「分かった。みなと話し合って決める」
そして俺は、その場を去り、東へ東へと進んだ。
その日の夜、その集落で話しあいが行われていた。
「あの者の言うとおりこの場を離れるべきだと儂は思うのだが、みなはどうじゃ?」
「得体が知れないから止めた方がいいと思います」
「確かに。勇次を救ったとはいえ、他所者。あまり信用しない方が」
「そうじゃのう。それに奴の言い方は少し引っかかるしのう・・・」
「どのあたりが可笑しいのですか?」
「あやつ、まるで過去に起きた人ごとのようにこの戦争を述べおる。
信じられんが、未来から来たような感じじゃ」
「そうでしたね、言うこと全てが過去形でしたし」
「二人とも、絵空事を言っている場合か!あいつに汚染されているぞ!」
「フム・・・どうしたものかのう?」
そのように、議論が白熱していく中、
ヒタヒタと、その場に近付いて行く一つの姿があった。
続く