複雑・ファジー小説
- Re: 獣妖記伝録 ( No.100 )
- 日時: 2011/08/11 08:59
- 名前: コーダ (ID: IoxwuTQj)
〜奪衣婆と懸衣翁〜
街道の左右には、優雅に揺れる草原が目に映る。
快晴の昼間。とても気持ちがよかった。
そんな中、2人の男女が歩いていた。
1人は、頭の上に兎のように長くて白い、ふさふさした耳が2本あり、女性用の和服を着ていた。
髪の毛も白く、長い。とても赤い瞳が印象的で、右目にはモノクルをつけていた。
右手には、とても大きな弓をもっていた。猪くらいなら、即死させてしまう威圧感である。
左肩には、矢を入れる箙(えびら)というものもつけていた。
極めつけに、首にはお守りかお札か分からない物が、紐で繋がっている。
もう1人は背中に、灰色の大きな翼をつけており、男性用の和服を着ていた男性。いや、少年と言った方が良いだろう。
黒い髪の毛は、肩までかかるくらい長かった。ぱっと見た感じ少女にも見える顔立ちだった。
右目は、深海をイメージさせるような青色で、左目は、血を連想させるように赤かった。
そして、女性と対照的に左目にモノクルをつけていた。
錫杖(しゃくじょう)を持ち、鉄で出来た、遊環(ゆかん)をしゃかしゃか鳴らしながら歩く姿は、妙な雰囲気を漂わせていた。
少年は足を止めて、翼をゆっくり羽ばたかせながら、草原を見つめる。
「どうしましたか?」
女性は、モノクルを触りながら尋ねる。
だが、何も答えず草原の中に足を踏み入れる少年だった。
頭に疑問符を浮かべながら、ただただ後をついて行く女性。
○
2人は、草原の先にあった1本だけ大きな木が生えている丘の上で休んでいた。
大きな幹を背中に預け、ほぼ体を密着させながら座る。
女性は懐からある本を取り出し、少年へ渡す。
すると、翼を動かしてモノクルを光らせる。
「その本、読んだことあるけど?」
この言葉に、女性は眉を動かす。
「そうでしたか?」
「そうだよ。珍しいね、君がこんな失敗をするなんて」
モノクルを触りながら、小さく唸る女性。
少年は、その姿を見てどこか嘲笑うかのような表情をする。
「三途の川の知識をいくらつけてもしょうがないよ」
どうやら、女性が持っていた本は三途の川についての物だった。
「人は必ず三途の川に行くのですから、知識はあった方が良いですよ」
「……君が言うと、意味深に聞こえてくるね」
突然の少年の言葉。
女性は、眉間にしわを寄せて頭を悩ます。
——————君が言うと意味深に聞こえてくる。
何をどう思って呟いた言葉のか、気になる一方である。
「まぁ、良いや。突然だけど問題。三途の川に行ったらまず何をされる?」
この問題に女性は、大きく唸る。
おそらく、この本に書かれていることをそのまま出したと思われる。
しかし、女性は本を持っているだけであまり読まない。だから、答えは知らなかった。
「三途の川へ誘導でしょうか?」
とりあえず、適当に答える。
すると、少年は目を細める。
「へぇ〜……なかなか面白そうだね。でも、はずれ。正解は、奪衣婆(たつえば)に着ている服を全部取られる」
少々小馬鹿にしたように、女性へ言葉を言う少年。
だが、怒りという感情は生まれなかった。
「ふ、服ですか?」
「そう。そして、奪われた服は懸衣翁(けんえおう)に渡される」
三途の川についてたんたんと説明する少年。
女性はモノクルを触りながら、黙って聞く。
「奪衣婆から渡された服を懸衣翁は木の枝にかける。そして、それを見て罪の重さを決めるんだ」
「服で罪を決める……?」
「懸衣翁は人の服だけで、いままで何をしていたのか分かるらしいよ。犯罪をしていたらそれもすぐにバレる……つまり、地獄行きの券を貰えるってことだね」
三途の川事情について丁寧に説明する少年。
だが、なぜそのような話をするのか疑問に思う女性。
モノクルを触りながら、恐る恐る尋ねる。
「どうして、その話しをするのですか?」
少年は眉を上げて一言言う。
「いや、特に深い意味はないよ」
このさらっとしている言葉に、長い耳をピクリと動かす女性。
不意に、少年は錫杖の遊環を鳴らしてその場で立つ。
そして、黙って足を進める。
「ま、待ってください!」
慌てて女性も、少年の後をついていく。
2人はまた街道を歩く。あてもなく、ただただ放浪するように——————
「(君の服を見て、懸衣翁はどう思うんだろうね。ちょっと、興味深い)」