複雑・ファジー小説

Re: 獣妖記伝録 ( No.106 )
日時: 2011/08/29 22:46
名前: コーダ (ID: Y8UB0pqT)

              〜九尾の狐 狐編〜

「平和じゃ……」

 わらわがここにきての第一声がこれとはのぉ。
 だが、ここは本当に平和な町じゃ。商人、飛脚、武士、主婦の姿をみていると本当にそう思う。

「歩き回るかのぉ〜」

 わらわはとりあえず、この町を歩き回ることにする。

「(おい、あの人尻尾9本も生えているぞ?)」
「(本当だ……しかも、かなり綺麗だぁ……)」

 う〜む。やはりわらわの姿は目立つのぉ。
 9本の尻尾、そう。わらわは紛れもなく九尾の狐(きゅうびのきつね)じゃ。
 狐の獣人は尻尾の数が多ければ多いほど、霊力を持っているのじゃ。2、3本でも十分力はある方じゃが、わらわはその3倍くらいの9本。
 当然、力の方は言うのも恐ろしいほどある。狐火、説得、金縛り、憑依、破邪、千里眼、霊力爆破、式神操作。
 まだまだたくさんあるが、割愛しておこうかの。

「(……無性に油揚げが食べたくなってきたのぉ)」

 わらわのお腹は突然空いてきた。どこか油揚げを売っている店があればいいのじゃが……。

「(おぉ?あれは正しく油揚げじゃ!)」

 普段の行いが良いからじゃの。油揚げを売っている店をすぐに見つけたぞ。
 さて、早速買ってお腹を満たそうかのぉ……。

 ……ん?わらわ以外の雌狐も居るのか。

「親父!この油揚げ20個くらいくれ!」

 おぉ〜……すいぶん珍しい雌狐じゃ。
 おしとやかで、女々しくて、艶めかしい雰囲気が全く感じられない。
 力強い感じがとても伝わるの。

「いやぁ……参ったなぁ……ん?」

 おっと、あの雌狐わらわのことに気がついたのぉ……。

「お、お前……尻尾9本もあるぞ!?」

 ふむ、確かに9本も尻尾が生えている狐をお目にすることは生きている中であるかないかくらいだ。
 あの雌狐の反応はもうわらわは慣れている。
 幾度(いくたび)も通りすがりの者に、言われているからのぉ。

「どうじゃ?九尾の狐をみた感想は?」
「きゅ、きゅうび……のき……?なんだ?」

 ほう……これは面白い雌狐じゃ。
 九尾の狐を知らない狐……少し話をきいてみようかの。

「汝は、九尾の狐という言葉は初めて聞いたような感じじゃの」
「そうだな。あたしはそういう知識はなくって……一応、連れの狐に叩きこまれている所だがな!」

 頭を使う狐にしては、知識の方は乏しいのかぁ……。
 珍しくないといえば珍しくないが、どこか変な雰囲気を感じるぞ。

「あたしの連れは尻尾が2本あるんだけど、貴様は9本もあるのかぁ……世の中まだまだ分からないことがあるんだな!」

 むっ……?この雌狐、独特な犬歯が生えているなぁ。
 まぁ、あまり深くは聞かないことにしておこう。

「じゃ、あたしはここらで失礼する!」
「そうか。連れの狐にもよろしく頼むぞぉ」

 ……不思議な雌狐じゃ。そこら辺に居る雌狐にはない何かがある。
 ふむ、世の中まだまだ分からないことがあるのじゃな。


                 ○


「いやぁ、尻尾が9本生えた狐も居るんだな〜。今日は初めて見たよ」
「むっ……?君ぃ、それは本当かぁ〜?」
「ああ、本当さ」
「ふむ……」
「おまけに綺麗だったし、あたしも負けてられないな!」
「(……?どこか、我の胸につっかかるなぁ……)」