複雑・ファジー小説
- Re: 獣妖記伝録 ( No.120 )
- 日時: 2011/09/01 17:08
- 名前: コーダ (ID: .cyOEvRH)
〜九尾の狐 犬編〜
「静かじゃ……」
わらわが、この村を見て率直に思ったことじゃ。
ここは本当に静かで、周りから聞こえる鈴虫の鳴き声がうるさく感じるくらいじゃ。
しかし、ちゃんと人の気配はする……家に引きこもるのは、少々いただけないの〜。
「まぁ……その方が、わらわは楽で良いのじゃがな……」
わらわが初めて行く町や村、そこの住民に必ず言われることがある。
“珍しい”じゃ。
理由はこの姿……9本の尻尾を生やして歩いているからのぉ〜。
じゃが、そんなのもう慣れた。むしろ、開き直って堂々と歩いてる最中じゃ。
そう……わらわは、九尾の狐(きゅうびのきつね)じゃ……9本の尻尾を生やすとても珍しい獣人兼……いや、今は言わないでおこう。
「それにしても、殺風景すぎるのぉ〜……」
いくらなんでも、これは人気がなさすぎる。
一体、ここの住民はどうやって生活しているのか、甚(はなは)だ疑問に思う。
「むっ……?」
あそこに、店があるのぅ……ちょっとわらわは、気になるぞ。
「お〜!」
まさかの、和菓子を売っている店じゃ!
わらわの心は、巫女の神楽(かぐら)のように舞い上がっているぞ。
早速、甘い和菓子でも頂こうかの。
「わらわは、そこの外郎(ういろう)を頂こう」
店の店員へわらわの好物。外郎を注文する。
この、淡白な味がまた美味(びみ)なんじゃ……。
————汝も、好きじゃったな。
「むっ?」
わらわが店の中を見回すと、1人の犬少女が座って、大量の和菓子を可愛らしく食べているのを見たぞ。
ふむ……あんなに尻尾を振って……可愛いのぅ。
「汝。もしかして、和菓子が大好きなのかぁ?」
わらわは、座っている犬少女へ声をかける。
尻尾をビクっと動かして、驚いたと思ったら、両手でメガネをくいっと上げてじっとわらわの事を見つめる。
1つ1つの行動が、また可愛いのぅ。
「汝は、本当に可愛い犬少女じゃ。将来、美人な女性になっているだろうなぁ」
この言葉が意外と嬉しかったのか、犬少女はもっと尻尾を振る。
じゃが……どこか、禍々しい雰囲気を感じる……あまり、深追いはしない方が良いようじゃな。
「ふむ……少し話をしたいが、わらわは非常に忙しい。じゃから、これで後にする。汝も、可愛らしく生きるのじゃぞ?」
店員から外郎を受け取り、わらわはこの店を後にする——————
「また会えたら……良いですね……九尾の狐さん……」
ほう、わらわの事を知っているのか……ふふ、あんなに可愛い少女が犬神(いぬがみ)とはの。
しかし、あの表情からはもう、人を呪うということはしないようじゃな……一体、犬神少女に何があったのやら。
ふむ、今の世の中何がなんだか分からんな。
○
「むっ?やけにご機嫌ではないか?」
「……狐さんに……可愛いって、言われた……」
「か、可愛い……ふむ、和菓子を頬張るそなたを可愛いとな……」
「むっ……わたくしは……九尾の狐さんに……言われたの……!」
「九尾の……狐……?」
「おそらく……この世の中で、1番……力を持っている狐……」
「ふむ……(はて?拙者の胸に、何かがつっかかる……)」