複雑・ファジー小説
- Re: 獣妖記伝録 ( No.133 )
- 日時: 2011/09/10 15:06
- 名前: コーダ (ID: WWHsNPjR)
〜九尾の狐 鳥編〜
「暇じゃ……」
わらわは思わずこんな言葉を漏らしてしまった。
ここは町の桟橋の中央。
何をしているのかと言うと……
「やはり、わらわには釣りはできん」
釣りをしていたのじゃ。
だが、これは非常に精神を統一しないとできんなぁ……わらわには、少々苦じゃ。
そもそも、ここには魚はおるのか?
「時間を無駄にしてしまったのぉ……」
浅い溜息をして、わらわは釣竿を持って桟橋の上を歩く。
「やはり、こういう時は和菓子屋へ行って外郎(ういろう)を食べるのが1番じゃな」
わらわは油揚げの次に好きな物は外郎じゃ。
あの淡白な味がもうたまらん……
それに、汝を思い出すからな——————
「さて、和菓子屋はどこかのぉ〜」
右手に釣竿を持って、わらわは和菓子屋を探す。
そもそも、勢いで竿を買ってしまったが……ふむ……質屋に出すか。
「おや、珍しいね……こんな所に君みたいな人が居るなんて」
……わらわの背後から突然誰かが言葉を飛ばしてきた。
思わず、身体ごと後ろへ振り向く。
そこには、錫杖を持った鳥の……少年?少女?ふむ、どっちか分からないが居た。
それにしても、やけにわらわのことを嘲笑うかのような表情を浮かべている。
「汝、わらわにどんな用じゃ?」
声をかけたのだから、きっと何か目的があるはず。
わらわは、思い切ってこの鳥人に尋ねる。
「用?別に、今は特にないよ……ただ、興味深いなってね」
ううむ……少々面倒な鳥人じゃな……それに、只者ではない雰囲気も感じる……
「確かに、9本の尻尾を持つ者が居れば興味を沸く者は居るだろうなぁ……」
「特に、こちらみたいな者には絶好の獲物だよ……九尾の狐(きゅうびのきつね)……」
なんじゃ……突然、鳥人の霊力が増長したぞ……
まさか……わらわを……?
「わらわは、今ここで死ぬわけにはいかないのじゃ……」
「……別に、こちらは今始末しようとは思ってはいない。ただの、脅しだよ」
脅しか……わらわも弱くなったなぁ……こんな若い鳥人の威圧感に辟易(へきえき)するなんて。
「それは助かる……わらわには、ある使命がある……」
「義務……ともいうでしょ?」
うむ……なんじゃ……この鳥人は……わらわのことを知っている……?
「失礼じゃが、汝の名は?」
「……君に名乗る名前なんてないよ。それに、今名乗ると色々面倒だしね」
錫杖、鳥、それにモノクル、よく見ると瞳の色が左右違う……まさか……?
「君、まさか……」
「さぁ、どうだろうね……」
汝があの者の——————だったら、わらわは……謝罪しなければならないなぁ……
「すまぬ」
「………………」
とりあえず、あの者の——————だった時のために、謝罪しておこう。
「本当……君が、猫を止めていればね……」
鳥人はわらわにそう言って、どこかへ行ってしまった。
誠に、その通りじゃ……
わらわの力不足……悔やんでも悔やみきれん……
「……とりあえず、わらわは使命を果たそう」
悔やむなら、使命を果たしてから……そう、わらわの胸に刻む。
○
「あれ?もう戻ってきたのですか?」
「ちょっと気分が変わってね……」
「はぁ……」
「所で、君は九尾の狐というのは知っている?」
「九尾の狐ですか?もちろん、知っていますよ」
「……それなら良いよ。じゃ、行こう」
「(九尾の狐……あ、あれ?なんか、私の胸に引っかかりますね……)」