複雑・ファジー小説
- Re: 獣妖記伝録 ( No.141 )
- 日時: 2011/09/19 23:31
- 名前: コーダ (ID: xe6C3PN0)
〜九尾の狐 獣編〜
「鼻がくすぐったいのぉ……」
町の中で、わらわは小さく愚痴をこぼしていた。
肉眼で分かるほどの木の粉が、わらわの鼻に入ってくしゃみがでそうになる。
ここは、木工が盛んな町なのじゃな。
「う〜む……慣れるまで、大変じゃ」
この町に居る人は、もうそんなの慣れていると言わんばかりの表情を浮かべている。
わらわも、負けてられんのぉ。
木の粉でやられる九尾の狐なんて、誰も想像したくはないだろうし。
「それにしても、汝たちはどこへ行ったのやら……」
わらわは各地を放浪する九尾の狐。
悪い妖を退治するという目的もあるが、1番大事な目的——————汝たちを探すことじゃ。
おかしいのぉ……どうして、こう縁がないのだろうか?
「早く伝えなければいかんのに……」
何も知らせずに、このまま寿命を終えるのは一生の恥じゃ。
せめて、汝たちに真実を告げてゆっくり眠りたい……
「それが、今わらわが望むこと……」
あんなことになってしまったが、汝たちはこの世を楽しく放浪できただろう?
色々な人、色々な町、色々な食べ物、色々な遊び——————
全てが、新鮮だったはずじゃ。
「だが、もうそれはおしまいじゃ……」
今のこの世は本当に楽しい。
わらわも去りたくないくらいだからのぉ……
「いかん……そんな甘ったるいことを言っている場合ではない……」
心を鬼にしなければならない。それがわらわ義務じゃ。
汝たちには、とても酷なことだろう。じゃが、それが運命(さだめ)……
「少なくとも、わらわが生きている間は……」
そう、わらわが生きている間が猶予。
……1年はとっくに切っているが。
「……むっ?」
なんじゃ?この不思議な感覚と気配は……いや、これはわらわも知っている……
まさか!?
「この近くに、汝たちは居る!?」
思わずわらわは焦って辺りを探し回る。
不思議な感覚と気配を頼りに——————
そして、とうとう見つけたのじゃ。
「苦労したぞぉ……汝たち……」