複雑・ファジー小説

Re: 獣妖過伝録(例3現完結) ( No.167 )
日時: 2011/11/08 22:38
名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: 9nM5qdCg)

             〜帰りと歴史〜


 たくさんの木々で覆われた山の中。
 太陽の光を遮り、その中は上空から把握できない。
 だからと言って、山の中を散策する者は1人も居ない。あまりにも多い木々に気持ちが辟易(へきえき)するからだ。

 そんな山の中に1つの神々しい建物——————神社が建っている。
 正面の朱色の鳥居が最初に出迎え、その後は神々しい建物が目を奪う。

 ——————鳥居の真下で、1人の鳥少女が箒で辺りを掃いていた。

 背中に灰色の大きな翼をつけて、巫女服を着ている。
 黒色の髪の毛は、腰にかかるくらい長く、可愛らしさと美しさを兼ね備えた容姿をしていた。
 前髪もけっこう目にかかっており、その瞳は藍色に輝いている。
 おしとやかな雰囲気とどこか清らからで、安心する雰囲気も同時に漂わせている。
 巫女服を着用にするにはとても良い体つきで、無駄な胸は一切ない。正に巫女の中の巫女である。
 鳥少女の目はどこか悲しく、それは生気を感じさせない。
 箒で掃いている場所を見ないで、時には明後日の方向を見つめる。
 そして、深い溜息をする。
 こんなに美しい鳥少女が悲しんでいる所を、他の鳥人が見ていたら思わず声をかける。
 しかし、ここは山の中。それは一切ない。
 巫女は背中の翼を動かして、目から涙を流す。
 箒を手から離して、それは無残に地面へ倒れる。
 鳥少女は弱々しく、口を開く。

「くす……ざき……」

 誰かの名前と推測できる言葉。しかし、何を言っているのかは分からなかった。
 巫女はどんどん目から涙を流す。気がつくと、鳥少女が立っている場所だけ雨が降った後のような色をしていた。

「……ちょっと、悪い時にきちゃったみたいだねぇ」

 どこからともかく聞こえてくる陽気な声。
 巫女は右袖で涙を拭き、声が聞こえた場所を見つめる。
 そこには、1人の女性が居た。

 頭には灰色の2つの耳が生えており、とても細い1本の尻尾も生えている。
 黒色の髪の毛は、肩までかかるくらいの長さで、前髪は右目を隠すくらい長い。
 だが、左目の輝く灰色の瞳はとても力強い印象を与える。
 やや暗い赤色の着物を着用していて、右手には十手(じって)を持っている。
 陽気そうな歩き方の中に、どこか争いごとを何度も経験している雰囲気を漂わせる。

「あなたは……?」
「久しぶりだねぇ。前に会った時よりもずいぶんと綺麗になっているとはねぇ。さすがは巫女さんだよ」

 どうやらこの女性とは前に会ったことがあるようである。
 巫女は頭の中で古い記憶をあさる。

「——————と言えば分かるかい?」
「……!?」

 鳥少女はようやく思い出した。
 そして、慇懃(いんぎん)に礼をする。

「良いよ。そんな改まらなくて……無礼講で構わないよ」

 女性は持っている十手で右肩を叩きながら、神社の中へ向かう。

「書庫ですか……?」
「まぁね。あたいの柄じゃないけどちょっと調べ物をしたくてね」

 妙な微笑みを浮かべながら言葉を飛ばす。
 巫女は頭の中に疑問符を浮かべる。

「どういう目的ですか……?」
「……歴史を見直すって感じ。もしくは、歴史を修正する?」

 白い歯を出しながら、冗談交じりに言葉を言う女性。
 鳥少女は地面の箒を拾い上げて、

「それなら……私も書庫へ行きます」
「……悪いねぇ」

 こうして2人は神社の中へ向かう。
 歴史を見直して、修正をする。

 いまいち女性の言っている言葉が理解できなかった——————