複雑・ファジー小説

Re: 獣妖過伝録 ( No.169 )
日時: 2011/11/19 05:17
名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: dAt4xoZB)

             〜過去の過ち〜


 頭にはふさふさした2つの耳が生えており、猫のように細い尻尾をふりふり動かしている。
 灰色の髪の毛は肩までかかるくらい長く、前髪は目にかかっていない。
 橙(だいだい)色の瞳は、いままで楽しく生きていたのが分かるくらい明るく輝いており、見つめられると思わず眩しく感じるくらい。
 さらに、非常に力強い歩き方をする。それは色々な所を放浪していると伺わせる。
 登山用の鞄(かばん)を持ち、陽気で話しかけやすい雰囲気を醸し出す。

 そんな猫男——————とある街道を歩いていた。
 右手には田畑が広がり、左手には一部が山火事で燃えたような山がある。
 猫男は少々懐かしそうな表情を浮かべる。
 そして、後悔もしていた。

「どうして、わっちはあんなことをしたんだろうなぁ……」

 山を見つめながら、言葉を呟く。
 その瞳の先には、周りと背丈が合わない木々。
 過去に山火事が起きて、そこからまた伸びる木々だった。

「……過去を振り返ってもしょうがないけど、わっちは馬鹿だった」

 尻尾を動かして、深い溜息をする。
 山から目を離し、また街道を歩き始める。
 あの陽気な歩き方は、今だけはなかった。

「今のわっちは、色々な種族に好意を持てる自信がある。犬、狼、兎、狐、鼠、狸、鳥……猫にしか眼中がなかったあの時が懐かしいなぁ……」

 猫男の脳内には色々な種族が思い浮かぶ。
 どれもこれも魅力的で、思わず胸が躍ってしまう。
 自分にはない個性。そこに気付いてしまったのである。

「……これは、わっちだけなのか?」

 同種族以外の者に好意を持つ。それは自分だけなのか考える猫男。
 否、そんなことない。人は誰しも自分と違う種族に憧れている。
 力強く、真っすぐな生き方をする犬と狼。
 人懐っこく、色々な人に可愛がられる猫と鼠。
 集団行動を好み、協力して生きていく兎と鳥。
 狡猾に生きて、知的に生きていく狐と狸。

 しかし、それを認めて恋をしてしまえば途端に犯罪者——————

「いや、わっちだけじゃない……ここに住む者、全員そう思っている……」

 国の変な決まりで、人々は自由にできない。
 そして、猫男はとんでもないことを呟く。

「同種族しか恋ができない決まりなんておかしい。あんなの人々の心を殺している……」

 いつにもなく真剣な表情を浮かべる。
 同種族しか相手が作れない。そんなのおかしい。

「……変えてみせる」

 目を見開き、なにか意味深な一言を呟く。

 ——————今の猫男の歩き方は、とても力強かった。