複雑・ファジー小説

Re: 獣妖過伝録(7過完結) ( No.175 )
日時: 2012/05/31 16:38
名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: KUO6N0SI)

            〜箒に掃かれる思い〜

 山の中にポツンとある神社。
 険しい道を歩いて、ようやくたどり着けるところにある。正直、参拝するには不便な場所。
 朱色の鳥居も、どこか色剥げている。大昔から建っているのだろう。

 ——————その下に、1人の少女が箒を持って周りを掃除していた。

 背中に灰色の大きな翼をつけて、巫女服を着ている。
 黒色の髪の毛は、腰にかかるくらい長く、可愛らしさと美しさを兼ね備えた容姿をしていた。
 前髪もけっこう目にかかっており、その瞳は藍色に輝いている。
 おしとやかな雰囲気とどこか清らからで、安心する雰囲気も同時に漂わせている。
 巫女服を着用にするにはとても良い体つきで、無駄な胸は一切ない。正に巫女の中の巫女である。

「私も……力があれば……」

 翼を小さく動かしながら、ぶつぶつと呟く巫女。
 考えごとをしているのか、先から箒は同じところを掃いている。

「——の馬鹿ぁ……」

 おそらく、誰かの名前を言ったのだろう。しかし、あまりにも声が小さくて詳しくは分からなかった。
 少女が考えごとをしている原因と関係あるのだろうか。

「でも……信じないと……私は——の帰りを待たないと……」

 箒を持つ手をぎゅっと握り、力強く辺りを掃く。
 巫女なのに、巫女らしい力を持てない自分。
 だから、待つことしかできない。そんな自分に困憊(こんぱい)していた。

「帰ってきたら……抱きしめても……良いよね?」

 顔を少し赤面させながら、鳥巫女は無言で掃除をする。

「あたいと違うけど、お互い悩んでるんだねぇ〜」

 そんな少女を、神社の縁側か見つめる1人の女性。
 両手に書物を持ち、尻尾を動かしながら共感していた。

「——ときには、大胆な行動もありかもね」

 薄く笑いながら、女性はじっと巫女少女の姿を見つめる。
 箒が動くたびに、土埃や葉っぱが掃かれる。
 だが、掃かれている物はもっとあるような気がした。

「——のいろいろな思いも、なんとなく見える気がする。悲しみ、怒り、憎しみ……だけど、それは完全にはなくならない。本当、これだけは簡単にはいかないかぁ〜」

 逆に、その思いが掃除をしただけでなくなるのは、いささか問題である。

「さぁ〜て、あたいもそんな気持ちを嘆き飛ばしながら探し物をするかぁ」

 彼女の場合は、ただ単に面倒という思いしかなさそうだ。

 ——————掃ききれなかった思い、少女はそれをどう処理するか非常に興味深い。