複雑・ファジー小説

Re: 獣妖記伝録 ( No.58 )
日時: 2011/08/02 00:35
名前: コーダ (ID: GHOy3kw9)

             〜葛の葉〜

 ある狐の男は言いました。
 将来は、とても美人な女性の狐と結婚すると。
 各地を放浪して、色々な狐を見てきました。
 しかし、男が望む美人な女性は居ませんでした。
 酒に溺れる毎日。
 自分は、いままで何をやってきたんだという、後悔が襲ってきます。
 だが、そんな男に、ある出会いがありました。
 たまたま、山の中を歩いていたら、とても美しい狐の女性が倒れていたのです。
 すべすべした肌は、何者かに斬り裂かれ、傷だらけでした。
 尻尾は、なぜか白く、黄金に輝く金色ではありません。
 整った顔立ち。呼吸はまだあります。
 男は、急いで女性を村に連れて、看病をしました。
 幸いにも、女性はだんだん元気になり、気が付くと、男に思いを寄せていました。
 もちろん男も見つけた瞬間、この女性に一目ぼれしていたので、2人の思いはすぐに実ります。
 どうやら、女性は白狐(しろぎつね)ということが分かりました。
 稀に、そういう狐が生まれることがあるので、特に気にはしませんでした。
 2人は、めでたく結婚します。
 村人からは、祝福の声がありました。
 そして、とうとう2人に1人の女の子が産まれました。
 女性と同じく、尻尾は白かったといいます。
 不思議なことに、女の子は非常に強い霊力を持っていました。
 狐火、金縛り、説得など、すぐに使えるようになり、男は非常に驚きました。
 将来大物になると、2人はそう思いながら、女の子の成長をゆっくり見守ります。
 女の子の尻尾は、2本に増えます。
 そして、3本になります。
 どんどん増えて、気が付くと4本も生えていました。
 男は、さすがに怖くなってきました。
 自分の娘が、どうしてこんなに霊力を持っているのか、疑問に思い始めたのです。
 ふと、妻に内緒で、ある狐に相談しました。
 その狐は、9本の尻尾を神々しく揺らし、とても女々しく、おしとやかで、艶めかしかったのです。
 もしかすると、自分の妻よりも美人だったかもしれません。
 ですが、そんな考えなど起こす余裕などありませんでした。
 男は、尋ねました。どうして、自分の娘がこんなに霊力を持っているのかと。
 九尾の女性は言いました。
 あなたの妻が、原因かもしれないと。
 九尾の女性が言った通りに、男は妻に尋ねます。
 君は、本当に狐なのかと。
 すると、妻は狐目になって答えました。
 私は、狐の妖(あやかし)。葛の葉(くずのは)と。
 男はぎょっとしました。
 自分は妖と結婚をして、子供まで作ってしまったのだ。
 まさかの真実。思わず、男は妻を置いて逃げ出しました。
 葛の葉は、男を追いかけます。
 その表情は、妖らしくありません。
 1人の女性として、夫を追う妻でした。
 ですが、結局葛の葉は捨てられてしまいました。
 目には大量の涙を、浮かべていました。
 幸せに毎日をすごしていたのに、ふとしたきっかけで捨てられてしまいました。
 自分が妖だから、こうなった。葛の葉は、自分自身が嫌になっていきます。
 悲しさのあまり、葛の葉は娘と一緒に、自害してしまいました。
 当然、村では大騒ぎになります。
 美人の妻を捨てた夫を、捜索する村人。
 しかし、見つかりませんでした。
 そんな村人に混ざって、九尾の女性が一言呟きました。

「良い妖と悪い妖の区別もつかんとは……馬鹿じゃのう……」