複雑・ファジー小説

Re: 獣妖記伝録 ( No.75 )
日時: 2011/07/28 17:52
名前: コーダ (ID: n/BgqmGu)

             〜日の出〜

 胸騒ぎがする。
 私は、真夜中に突然起き上がった。
 大量の汗をかいていて、荒い呼吸もしていた。
 胸がはちきれんばかりの激しい鼓動。ドクドク、ドクドクと、非常に気持ちが悪かった。
 辺りを見回しても、真っ暗な部屋しか映っていない。
 外からは、梟(ふくろう)の鳴き声が聞こえる。
 なぜか、それは恐怖に感じる私。
 ギシッと。部屋の中から不気味な音も聞こえてくる。
 耳をふさいで、布団に体を包む私。
 このまま寝てしまえば、恐怖心に駆られる心配はなくなる。
 だが、眠れなかった。
 むしろ、どんどん眠気が覚めていく。
 体も震えていた。早く、早く朝になってくれと、私は心の中で叫ぶ。
 熱い。布団の中に入っているからか、尋常じゃない程の汗が出てくる。
 だけど、なぜか布団から出たくなかった。
 もしかすると、部屋の中に何かが居るかもしれない。
 恐怖心につぶれる私。
 声を出しながら、呼吸もしていた。
 寝よう、寝ようと考えれば考えるほど、私は眠れなくなる。
 なぜだ。なぜなんだ。私は、妖を退治する兎だぞ。
 これくらいで、怯んでいたらだめだ。
 でも、やっぱり怖かった。
 早く、早く、早く、早く朝になってくれ!
 切実に願う私。
 そして、気が付くと目の前が真っ暗になった——————


                ○


 胸が清々しい。
 私はとても気持ち良く起き上がる。
 明るい日差しに、思わず目をつむる。
 真夜中の、恐怖心が嘘のようだった。
 だけど、大量に汗をかいたのは真実だ。
 その証拠に、布団がやけに濡れていたからだ。
 不思議だ。どうして、同じ部屋なのに、時間が変わると人の心はおかしくなるのだろう。

「おや。やっと起きたようだね」

 不意に、私は誰かに声をかけられる。
 大きな翼を持った少年。私のパートナー的な存在だ。
 とても偉そうで、無茶ぶりもよくするけど、妖退治はとても出来る。

「はい……ちょっと、怖い思いをしました」

 私は、真夜中の出来事について、少々恥ずかしかったが、少年に言った。
 怖くて眠れなかった。気が付くと、汗も大量に出てきて呼吸も荒くなった。
 だいの大人が、何を言っているんだ。と、私は思った。
 だけど、少年は私を馬鹿にしなかった。

「そう。まぁ、それは仕方ないよ。だって、妖(あやかし)は逢魔が時(おうまがとき)以降から活発に動くんだからね。真夜中は1番活発の時間……人が、恐怖に陥るのは仕方ないよ。だけど、日の出(ひので)と同時に、妖は居なくなってくる。朝になったら、恐怖心がなくなるのはそのためなんだよね」

 なるほど、真夜中で恐怖になることは普通なのか。
 逢魔が時と日の出は、対照的な存在。
 やっぱり、この少年はすごい。私の頭は上がらない。

「それに……そんなに怖かったなら、こちらを起こしてくれれば良かったのにね」
「もし、起こしたら何をしてくれたのでしょうか?」

 私は、意地悪にそう尋ねた。
 いつも意地悪な質問をされているので、たまには仕返しも良いだろう。

「君の手くらいなら、握ってあげるよ」

 えっ?私の手を握る?
 まさか、こんな言葉が返ってくるなんて予想もしなかった。
 私は、少々慌てた。
 少年は、その姿を見て笑っていた。

「さて、放浪の旅を続けよう」

 やっぱり、この少年はすごい。
 将来、大物になりそうだな——————