複雑・ファジー小説

Re: 獣妖記伝録 ( No.87 )
日時: 2011/08/01 17:17
名前: コーダ (ID: GHOy3kw9)

              〜煙々羅〜

「誰かと思ったら、お主か」
「途端に話し相手が欲しくなってな、ロウソクを灯せばすぐに出てくる汝は、本当に便利じゃ」
「まぁ、煙があればすぐに出てくることが出来る妖(あやかし)だからな。で、なんだ?」
「そう慌てるな。最近調子はどうじゃ?煙々羅(えんえんら)」
「ワシは、特に目立った事はない。お主の方こそどうなんだ?」
「わらわもじゃ。良いこともなければ悪いこともない。ごくごく普通に放浪しているぞ」
「ふむ……お主のような者なら、そこら辺の男狐に絡まれてもおかしくはないと思うが?」
「わらわも歳じゃ。若者の勢いにはもうついていけん……」
「歳という割には、見た目はまだまだ美人だがな」
「よさんか。わらわの胸が躍ってしまうじゃろ」
「何千年か前は、お主も1人の女性だったのにな」
「あの時は、わらわの心はまだ若かったのじゃ。ふふ、甘い思い出だったのぉ〜」
「……結局。まだ会えないのか?」
「そうじゃ。全く……どこをほっつき歩いているんだかのぉ……」
「まぁ、良いではないか。もしかしたら、この世界が気にいったのかもしれないぞ?」
「この世界かぁ……確かに、わらわもこの世界は昔よりは大好きじゃ。殺伐としたあの時よりはのぉ〜」
「殺伐とさせたのは、どこの誰だったかな?」
「うむ……汝は、少し意地悪じゃの」
「そうか?だが、お主が居るからワシはこうやって、この世で生きることが出来た。そこは、感謝する」
「そう褒めるな。上からの指令だったのじゃからな……」
「……その指令は、実行して良かったと思っているか?」
「分からぬ。もう何千年も前の話だからのぉ……この世は、獣人と鳥人しか居ないのが当たり前になってきた……」
「なぜ、上は共存という道を選ばなかったのか……」
「……わらわも、共存した方が良いと思ったのじゃがなぁ」
「だが、上に逆らえなかった……と」
「そうじゃ。ただただ殺しを続けてきた……所がどうじゃ?今は危険な妖がうじゃうじゃ居る……上がしっかりしていれば、汝のような者しか居なかったのに……」
「………………」
「今となっては、わらわはただ危険な妖を退治するために放浪しているだけじゃ……しかし、そろそろ寿命がのぉ……」
「残念だ。お主のように力がある者が、もう少しでこの世から去ってしまうだなんて」
「よさんか。わらわは、普通の九尾の狐じゃ」
「普通……か……」
「それに、わらわは寿命が来る前に、早いところあの者たちに会って真実を伝えないとなぁ……」
「真実か……なぜ、伝えないとだめなんだ?」
「義務だからじゃ」
「………………」
「可哀そうなのは、百も承知済みじゃ……だがのぉ……わらわは、心を鬼にしないといけない……」
「何かあれば、ロウソクに火を灯してくれ、いつでもワシが相談になろう」
「助かる……」
「お主と、久しぶりに会話が出来て、ワシは嬉しかった」
「わらわもじゃ……では、縁があったらまた会おう……」
「うむ」