複雑・ファジー小説
- Re: 光の堕天使 〜聖なる力を持ちし者〜 ( No.579 )
- 日時: 2012/11/25 18:57
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: dFTsrC3s)
一方その頃、キル達はディムの家から出て、アリー達の帰りを待っていた。
「アリー、いったいどうしたんだ?」
「確か、『姉さんを探しに行ってくる!』って言ったけど、姉さんに何かあったのかな?」
「……。」
キルはしばらく、顎に手を置いて考え込む。
彼は…彼には、一瞬だけ見えたのだ。
必死の抵抗もむなしく、同じ天使族達に連れて行かれる、ルエの姿を。
キルは、彼らを退けてでも、彼女を助けてやりたかった。否、助け出したかったのだ。
でもできなかった。何故なら、彼らに邪魔されたから。
キルの脳裏に、辛そうな顔をしたルエの姿が浮かぶ。
(もし…もしも何か悪い事が、俺達がいない中で行われていたとしたら、あいつは…。)
「…俺も、行ってくる。」
「!? キル!? ちょっと待って!!」
ホルンが止めようとするが、彼は無視し、翼を広げて飛んで行ってしまった。
「どうするんですか?」
ココアが、心配そうに問う。
「…寮で、姉さん達が帰ってくるのを待とう。
今は、それしかできないから…。」
ホルンがそう言うと、ココア達は曖昧に頷いて、寮へと向かう。
そんな彼らの後に、彼女も続いた。
その途中、振り返って呟いた。
「どうか、無事で…。」——と。
————————————————————————————————
「…無理もないよね。いろいろあったんだから…。」
天使界に帰る途中、アリーは飛びながら呟いた。
彼女の背中には、眠っているルエがいる。
泣き疲れたのだろうか、涙の跡が残っている。
アリーは彼女を背負いなおし、飛行を続ける。
すると、見覚えのある人影を、彼女は見た。
「! キル!!」
「! アリー! ルエは!?」
キルはそう言って、彼女達に寄り添う。
心配の表情が、アリーにも見てとれた。
そんな彼に微笑んで、ルエを見ながら言った。
「大丈夫、ルエは無事だよ。今は眠ってる。」
その言葉に、キルはホッと胸を撫で下ろす。
「良かった…。何かあったかと思ったら、とても不安になって…。」
彼はその状態のまま、こう続けた。
- Re: 光の堕天使 〜聖なる力を持ちし者〜 ( No.580 )
- 日時: 2013/06/26 20:12
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: 6U1pqX0Z)
アリーは彼の言葉に、ゆるゆると首を振って言った。
「違うの、キル。さっき私が言った言葉、修正させて。
ルエは……無事じゃなかった。」
「!? どういう事だよ!?」
今にも、彼女に掴み掛からんとばかりに詰め寄るキルを、何とか押し止めて、アリーは言った。
「……実はね……死のうとしてた。」
すると、彼は真っ青な顔をして、数歩下がった。
しかし、すぐに表情を変え、小さく呟いた。
拳を握りしめ、怒りを含んだ、震えた声で。
「……止めなかったのか?」
「え?」
アリーが聞き返すと、今度は大きい声で言った。
「なんで止めなかったのかって聞いてんだよ!!」
「お、落ち着いてキル!! ルエが……」
「!」
彼女にそう言われ、キルはハッと我に返る。
ルエの方を見ると、まだ眠っていた。
「……もちろん止めたよ。説得もした。」
しばらく経ってから、アリーは呟くように言った。
そして、ルエを背負いなおすと、飛行を続けた。
「ルエがこうなったのは、なんでだ?」
後に続いたキルが、彼女に聞いた。
アリーは俯き、不意に立ち止まる。
そして、ぽつりと呟くように言った。
「……他人不信。」
「!」
「止めた時に、『他人を信じ切れていない』って、言ってた。
……裏切られたんだよ、ルエは。」
その言葉に、キルはグッと拳を握りしめる。
「俺が早く気づいて止めていれば……こんな事にはならなかったのに……」と、小さな声で呟く。
アリーはそんな彼を見て、こう言う。
「キルのせいじゃないよ。」
「でも! 俺はルエを助けられなかった!!」
キルはそう言うと、悔しさをこらえるかのように、唇を噛む。
するとアリーは、そんな彼を立ち直らそうと、こんな事を言った。
「ルエが信用できるような人になろう! あの子に頼られるようになろうよ!
落ち込んだままじゃ、やるべき事もやれないよ!!」
「!」
彼女の言葉に、キルはハッとする。
そして、しばらく経った後、ふっと微笑んで、
「ありがとうな! アリー!!」
と、言った。
暗い気持ちを振り払ったかのような笑顔に、アリーもつられて微笑んだ。
- Re: 光の堕天使 〜聖なる力を持ちし者〜 ( No.581 )
- 日時: 2012/12/09 13:47
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: dFTsrC3s)
二人はその後、何も話さずにまっすぐ進み、目的地の天使界に降り立った。
「着いた!」
アリーは喜びを感じながら、そう言った。
「っていうか、ルエがなかなか起きないんだが…。」
キルは苦笑いを浮かべ、彼女に背負われているルエを見る。
「そっとしておこう。いろいろあったから、疲れてるんだよ。」
アリーがそう言うと、彼は頷いた。
「さ、寮に戻ろう。」
「あぁ。」
二人は寮に向かって進み、アリーが手を離せないので、キルが扉を開ける。
するとそこには、いつもの風景があった。
「…懐かしいね。」
「そうだな。いろいろありすぎて、ここに帰る時間が無かったからな。」
あぁ、やっと帰ってこられたのだ、と、二人はそう感じた。
立ちっぱなしもいけないので、進もうとした、その時、
「あ!」
アリーが、突然声をあげた。
「どうした?」
キルが尋ねると、彼女は思い詰めたような顔をして言った。
「ルエ、どうしよう…。」
「看る人がいないのか?」
彼女は頷いて、「どっちみち、食堂に行かないといけないから…。」と、言った。
「そりゃ、困ったな。俺もそこに用があるから、看れないし…。いったいどうすれば…。」
二人して悩んでいた、その時、
『なら、俺達が、そのルエっていう奴を看てやろうか?』
突然、どこからか声がした。
驚いた二人が、あたりを見回すと、突然光が出てきて輝きだし、そこから二人の男性が現れた。
一人は、白銀の長い髪に鮮やかな緑の瞳を持ち、灰色の、浴衣のような服を身に纏っている。
もう一人は、漆黒の肩につく位の髪に、とても深い青の瞳を持ち、こちらも同じ服を身に纏っていた。
アリーは、その二人を見て、驚く。
「知りあいなのか?」
様子を見たキルがそう尋ねるが、彼女は無視し、それを隠せないまま、二人の男性に問う。
「ハクさん、リュウさん! 何故貴方達が、ここにいるんですか!?」——と。
- Re: 光の堕天使 〜聖なる力を持ちし者〜 ( No.582 )
- 日時: 2012/12/19 23:06
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: 4z3SNsbs)
ハクと呼ばれた、左の方にいる男性は、少し困った顔をして言った。
「なんでって…。お前らが困ってたから。」
「たったそれだけですか!?」
再び驚くアリーに、「助けるのは当然だろ?」と言って、ハクは笑った。
「あ、でも…すごく嬉しいです! ありがとうございます!」
「気にすんなって!」
そんな二人の会話を聞いていたキルは、首を傾げて問う。
「なぁ、アリー。さっきから気になってたんだが、その人達は誰なんだ?」
「この人達は、ハクさんとリュウさんっていうの! 前に、ルエ達を助けてくれた、恩人さんなんだ!!」
彼は、「へぇ…。」と言って、頷く。
その後、軽く自己紹介をした。
「よろしくな、キル!」
「よろしく頼む。」
すると、リュウはアリーの背中にいるルエを見て、
「ところで、そいつをどうしたらいいんだ?」
と、問うた。
彼女は、少し俯いて、こう言った。
「あの、お願いがあるんですけど…私達がいない間、ルエを看てもらえませんか?」
ハクとリュウの二人は、お互いに顔を見合わせると、アリーに向かって微笑んで言った。
「おう、任せとけ!」
「そういう事なら、協力する。」
二人の言葉に、アリーは顔を明るくすると、
「ありがとうございます!」
そう言って、頭を下げる。
そして、ハクに小声で何か囁くと、キルと共に食堂へ向かった。
—食堂—
そこでは、ホルン達が彼らの帰りを待っていた。
アリー達が扉を開けると、椅子から立ち上がって、一斉に駆け寄って来た。
ホルンは、よほど心配していたのか、不安を隠せないまま、こう聞いた。
「! アリー! 姉さんは!?」
「大丈夫、ルエは無事だよ。今は寝てるから、そっとしておこう。」
すると、彼女は安心しきった表情で、「良かった…。」と、呟く。
しかし、アリーは真面目な顔をすると、こう言い放った。
「今から、大事な話をするんだけど…聞いてくれるかな?」
彼女の真剣な表情に、全員の顔が、強張った。
- Re: 光の堕天使 〜聖なる力を持ちし者〜 ( No.583 )
- 日時: 2012/12/28 15:51
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: 4z3SNsbs)
…夢を見た。
真っ暗な空間に、一人で立っていて。
その事が、怖くなって。誰かを探そうとして、走るが、誰もいない。
「…みんな? どこにいるんだ…?」
辺りを見回して、そう問うても、反応はない。
もしかして、私はまた…独りになるというのか…?
また、誰かに対して、警戒心を持たなければならないのか?
やっと、やっと信じる事ができたのに、また他人を疑うというのか?
そんなの…そんなの…!
「絶対に嫌だ……!! アリー、キル、ホルン! 誰か、返事をしてくれ…!」
…私が叫んだ声は、あなた達に届いていますか?
もし届いているのなら、聞いてもいいですか?
心のどこかに閉じ籠って、楽しそうにしているあなた達を、そこから睨み付けていた私に、それでも接してくれるんですか?
頼ってもいいですか? 甘えてもいいですか?
形振り構わず、思い切り泣いてもいいですか?
あの時の優しさや、かけてくれた言葉は、嘘じゃないと、信じてもいいですか?
…最後に、もう一つ。
私は…私は、一人じゃないのですか?
『そうだよ、ルエ。あなたは…一人じゃない。』
…あぁ、この言葉は…私を絶望の淵から救ってくれた…。
ありがとう、アリー。お前がいたから、私は…。
————————————————————————————————
そこで私は、目を覚ました。
今のは、夢だったのか…。
「? あれ? なんでこんな所に…。」
確か、私は死のうとして…そこをアリーに止められて…。
あいつに、『一人じゃない』と、言われて泣いて…その後は、よく覚えてない。
もしかして、眠ってしまった、のか…。
「…はぁ。」
自然にため息が出る。
…なんで、こうも他人を疑う性格になってしまったんだろうな、私は。
人間だった頃の記憶のせいか? 確かに、人間を激しく憎み、恨んではいる。
たぶんそれは、今でも変わらないと思う。
でも、アリー達が手を差し伸べてくれたおかげで、「あぁ、こういう者もいるのか。」と、感じるようになった。
私はかえって、人間や他人の長所を知った気がする。
残酷さや醜さは、確かに彼らの中に存在する。
だけどそれでも、優しさや、温かい心を持っているのだ、と。
彼らを信じよう。いつ、完全に信じる事ができるかは分からないけど、あいつらに心を開こう。
そして、そうなったら…一緒に笑いあえれば…いいな…。
しばらくそう考えていた、その時、
「お、目が覚めたみたいだな。」
突然、どこからか声がした。
その声がした方に振り向くと、二人の長身の男性がいた。
しばらく、思考が止まる。
これはいったい…どういう事なんでしょうか?
「えええぇぇえぇぇぇぇ!?」
思わず私は叫んだ。
なんでかって? 目の前に男性二人がいるからだよ!!
だいたい、人がいる事自体、誰でも驚くっての!!
「えっ、なんで、えっ!?」
「…大丈夫か? とりあえず、落ち着け。」
右側にいる男性にそう言われ、深呼吸する。
そうしたら、気が楽になった。それと同時に、状況が理解できた。
整理すると、恐らく、彼らは誰かに頼まれて、ここにいるに違いない。
そうじゃなければ、何処かに行っているはずだ。
だから、さっき聞こえた声主は、この二人のうちのどちらかという事になる。
…ただ、問題は警戒しなくてもよい人なのかどうか…。
とりあえず、軽く自己紹介することにしよう。
「先程は、ありがとうございました。私はルエです。あなた達は、いったい…?」
見た目は、悪い人物ではなさそうだけど…。
「俺? 俺、ハクってゆーの。よろしくな!」
「俺はリュウ。よろしく頼む。」
「あの、少し聞いてもいいですか?」
名前が分かったので、気になった事を聞いてみる。
「ん? なんだ?」
「なんであなた達は、ここにいるんですか?」
すると、左側に立っているハクさんは、考える素振りをしながら、こんな事を言った。
「えーっとな…頼まれたんだよ。お前の親友に。」