複雑・ファジー小説
- Re: 光の堕天使 〜聖なる力を持ちし者〜 ( No.588 )
- 日時: 2013/02/27 21:31
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: JuyJRz6j)
「…とりあえず、座って。」
アリーにそう促され、キル達は椅子に腰かける。
それを見計らうと、彼女は話し始めた。
「話っていうのはね、ルエの事なんだけど…。あの子に、何かしてあげたいと思ってるの。」
「どうして?」
ホルンが首を傾げて、そう問う。
「だって…ルエ、あまり笑ってないもの。」
「あ、そう言えば…あまりなかったな…。」
キルが何かを思い出したかのように、ぽつりと呟く。
すると、
『その話、私も混ぜてもらってよろしいですか?』
突然、どこからか声がした。
アリー達が辺りを見回すと、入り口付近に光が現れ、そこから、一人の女性が出てきた。
黒髪のロングヘアーに、緑色の瞳を持つ女性を見て、彼女達は跪き、その名を呼ぶ。
『女神様。』
「そんなに畏まらなくても、よろしいのですよ。顔を上げてください。」
女神にそう言われて、アリー達はその通りに従い、また椅子に腰かける。
「ところで、女神様が何故、このような所に?」
アリーがそう問うと、彼女はふわりと笑って言った。
「あなた達の話を聞きたいというのもありましたが、この時期に、ある真実を伝えた方が、都合がよいと思ったからです。」
「ある、真実?」
キルがそう言って、少し首を傾げる。
すると、女神はスッと表情を硬くして、こんな事を言った。
「あなた達に、特別にお教えしましょう。
私の名前は、ハープ・ハーミア。ここ、天使界に、堕天使として生まれた娘、ルエ・ハーミアの母です。」
その言葉に、食堂にいた女神…否、ハープ以外の全員の思考が、一瞬止まる。
そして、
『ええぇぇえぇぇえぇぇ!?』
一斉に叫んだ。
それにハープは慌て、手を叩きながら、
「静粛に!!」
と、彼らに言った。
すると、彼女の言葉で、全員が黙り込む。
そんな中、アリーが彼女に、恐る恐る、こんな事を聞いた。
「あの…女神様。その事実は、ルエは知っているのですか?
あの子がそれを知ったうえで、私達に明かしたんですか?」
その問いに、ハープは首を振って答えた。
「いいえ。ルエはその事を知りません。
私が女神だという事も。そして…」
そこまで言って、彼女は一旦言葉を切る。
そして、深く息を吸うと、こう言い放った。
「あの子が持つ力、聖なる力の真実を。」——と。
- Re: 光の堕天使 〜聖なる力を持ちし者〜 ( No.589 )
- 日時: 2013/03/28 17:11
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: 6U1pqX0Z)
その言葉に、ハープ以外の全員は、戸惑い始める。
そんな中で、
「聖なる力の…真実?」
アリーが訝しげに、ハープに問う。
彼女は頷いて、こんな事を言った。
「はい。話しておかないと、あなた達が大変な事態に、巻き込まれると思って…」
「大変な事態?」
「それはまだ言えません…。ですが、そうなると覚悟したうえで、話を聞いてください。」
そう口火を切り、ハープは語り始めた。
「まず…聖なる力は、元々は、天使族の一人が持っていた力なんです。」
「天使族が!?」
アリーは驚いて、思わず立ち上がる。
その音に、キルが反応して、彼女に言う。
「アリー、気持ちはわかる。だが、今は少し落ち着け。」
「…そう、だね。ごめん…。」
申し訳なさそうに、彼に言うと、アリーは椅子に腰かける。
そんな彼女の様子を見てから、ハープは続けた。
「力…というよりも、願いでしょうか。それが覚醒されたものが、彼が持っていた能力、故に、本来の聖なる力の実態です。」
「願い…? それはいったい…。」
「…少し、昔話をしましょう…。」
そう言うと、彼女はその話を語り始める。
「昔、天使族と悪魔族の間で、戦争が勃発しました。
堕天使族は、中立の立場でしたが、天使派と悪魔派に分かれ、加戦しました。
やがて、戦争は次第に激しさを増し、次々と町を壊し、多くの命を奪いました。
その光景を見た、一人の天使は、願いました。
『戦争を止めてほしい』——と。彼は仲間達に、その事を話しましたが、彼らは聞く耳を持ちませんでした。むしろ、その一人に、こう言われたのです。」
そこで、一旦言葉を切ってから、彼女は続けた。
「『話し合ったってどうにもならない。だから武力で分からせてやるんだ。正しいのは、自分達なんだっていう事を』——と。
…それに彼は愕然とし、深い絶望に襲われました。」
「!」
その言葉に、アリーは絶句した。
だが、すぐに我に返ると、拳を握りしめ、呟くように言う。
「…ひどい。やってみないと分からない事だって、沢山あるのに…。」
「……。」
そんな彼女を、キルは悲しそうに見つめていた。
- Re: 光の堕天使 〜聖なる力を持ちし者〜 ( No.590 )
- 日時: 2013/03/31 18:55
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: 6U1pqX0Z)
親友っていうと、アリーか、それともキルの事か…。
いろいろと考えていると、ハクさんの手に、何か持っているのが目に入った。
気になったので、彼に尋ねてみる。
「ハクさん…。あなたが持ってるものって、いったい…。」
「? あぁ、これの事か。……なんだろう…ペンダントみたい…だな…。」
「!」
ペンダント…!? まさか…!!
首辺りを擦ると、何も無い事に気が付いた。
私は思わず、彼に食って掛かる。
「それを返してください! 大事な物なんです!!」
「!? なんなんだよ、いったい!」
驚いたハクさんは、ペンダントを持ってる手を、私が届かない位置にあげる。
まるで、大切なおもちゃを返さない子供のように。
「なんで返してくれないんですか!!」
「お前には悪いが、どうしても返せない理由があるんだよ!」
そう言って、彼は右隣にいるリュウさんに、それを渡す。
(なんで、そこまでして…!!)
すると、こちらが焦っているのを理解したのか、リュウさんが言った。
「じゃあ一つ問うが、お前がこれを返してほしい理由はなんだ?」
「それは…。」
そこまで言いかけて、言葉が止まる。
…あの時…アリー達に堕天使だとばれた時、とうとうやってしまったな、と思った。
もう、ここにはいられない、とも思った。
私は本来、天使界じゃなく、堕天使界に住むべきだった。
そうすれば、あいつらに会う事もなく、幸せに生きて行ける。
——————はずだったのに…。
お母さんはどういう訳か、天使界に住まわせた。
普通は、堕天使だと分かった時点で、捨てる筈だった自分を。
堕天使界じゃなくて、ここに。
…お母さん。寮の前に着いた時、あなたはペンダントの中から、私にこう伝えて、消えていったよね。
『あの寮には、あなたにとっての、『大切な人』が、たくさんいます。
例え、あなたが堕天使だとばれても、その人達は事実を受け入れ、あなたを支えることでしょう。』
…最初は、お母さんの言う通りだった。
皆は、『裏切らない』って。そう言ってくれた。
だけど、それも砕かれた。
——————森の中から現れた、一人の人物によって。
…お母さん。やっぱり私……堕天使として、生まれ変わらなかった方が、良かったのかな——————?
- Re: 光の堕天使 〜聖なる力を持ちし者〜 ( No.591 )
- 日時: 2013/04/02 18:08
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: 6U1pqX0Z)
「…おい、どうしたんだ?」
「!」
突然、ハッと我に返る。
顔を上げると、リュウさんが心配そうに、こちらを見ていた。
「…あ、いえ…。
少し、考え事をしていただけで…。」
「……そうか。」
リュウさんはそう言ってから、「話しにくいのなら、言わなくて構わない。」と、付け加えた。
その言葉に思わず、私は慌てて言った。
「あ、あの、理由はあるんです!! ……その…。」
「「?」」
二人が訝しげに、私を見るが、それにも構わず、続ける。
「……このままの姿で…居たくなくて…自分は…自分は、あいつら…アリー達を騙して、それから今まで、のこのこと生きてて…。
だから、皆に合わせる顔が無くて…今まで、偽りの姿で接する事が辛いと思っていたのが、今度は、逆の方になってしまったんです。」
可笑しいですよね、と付け加えて、私は笑った。
二人からしたら、なんでこんな状況で笑うのだろう、と思われても、仕方がなかったと思う。
私はあいつらを騙して、身分を天使族と偽って、生きてきたのだから。
それがばれた今、もうここを去る他に、方法は無いと思っている。
話を聞き終わった後、納得したように頷いて、ハクさんが言う。
「そうだったのか…。でもな、だからと言って、何時までも天使の姿のままっていうのは、良くないと思うぞ。」
「……。」
それは知っていた。分かっていた。
なのに、言葉が出てこない。
「それに…。」
「?」
まだ続きがあるのだろうか、彼は呟くように言った。
「…案外、お前の仲間は、そんな事で離れたりしないんじゃないか?」
「…え?」
思わず、私は彼を見た。
離れたり…しない…?
なんでそう思うの?
そう考えていた時、ハクさんはこんな事を言った。
「お前の親友…確か、アリーだっけ? あいつ、すごく心配していたぞ。
よほどお前の事が大切なんだろうな、アリーは。」
「……。」
全然知らなかった。アリーが、そこまで私を想っていたなんて…。
私は、分かろうとしなかったのか。あいつの事を。
すると、
「!? 何するんですか!?」
「ほら行った行った! あいつらが待ってるぞ!!」
突然、彼は私を部屋から追い出すと、扉を閉めて、さらには鍵まで掛けた。
母の形見のペンダントを、返さなかったままで——。
「…はぁ。」
これからどうしよう…。
とりあえす、食堂まで行くしかなさそうだな…。
歩いて数秒ほどすると、扉が見えてきた。
だけど、ドアノブを掴んで開けようとした時、その手を思わず、止めてしまう。
(……駄目だ…。)
踏ん切りがつかない。
かえって、この扉を開ける自信が、私には無い。
あいつらが待っている、と、ハクさんは言っていたけど、本当は違うんじゃないか、と思ってしまう。
一言で言ったら、怖いのだ。
この先にある、新しい世界が。
そんな感情が表れ出したのか、ドアノブを持っている手が、わずかに震える。
(あいつらは……いったい、どう思ってるだろう…。)
心に残るモヤモヤを抱えたまま、ゆっくりと、ドアノブを回し、扉を開けた————。
- Re: 光の堕天使 〜聖なる力を持ちし者〜 ( No.592 )
- 日時: 2013/04/13 17:36
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: 6U1pqX0Z)
ルエが扉を開けた先にあったのは、彼女がここに来るのを待っていた、アリー達の姿だった。
「……おかえり。ルエ…。」
キルの向かい側に座っているアリーが、微笑みながら、そう言った。
しかし、ルエはその事に驚き、ぽつりと呟いた。
「……なんで。」
「? ルエ?」
アリーが不思議に思い、彼女を呼ぶ。
だが、ルエは聞こえないのか、彼女の声を無視して、こう問いだす。
「なんで……追い出さない…?」
「? おい、お前何言って…。」
「なんで私を受け入れるんだよ!?」
キルが訝しげに声をかけるが、ルエはそれを、大声で遮った。
その後、次々に言葉を紡いでいく。
「私はお前らを騙したんだぞ!? 天使族と偽っていたんだぞ!?
なのになんで!? 裏切ったって良かった! いや、かえってその方がましだった!!
その方がずっと、ずっと…全部良かった筈なのに…!!」
言い終わってから、ルエは肩で息をした。
一気に疲労が押し寄せてきたのか、荒くなっている。
「……。」
それを聞いて、黙り込んでしまったアリー達を、ルエが気づかない筈もなく、さらに言葉をぶつける。
「そうだろうな。言えるわけ無いよな。
お前らを騙して、今まで天使族と偽っていた私に、言う事なんて何も無いだろうな!!」
彼女はそう言ってから、嘲笑した。
その笑みはどこか、儚いものだった。
彼女の言葉をずっと聞いていたアリーは、ふと思う。
きっとこの子は…寂しさや孤独を抱えていた人間だったのだ、と。
だからこそ、強がる、否…強くあろうとするのだ、と。
(しなくても…いいのにね…。)
彼女は心中で呟いて、そっと微笑んだ。
どこか…似ている。
かつて一緒にいた、大切な友達に————。
(あの子の警戒心を、解いてあげよう…。)
そう決意すると、アリーはルエに、穏やかな声で言った。
「そんな事…しないよ。」
「…何?」
ルエが訝しげに、彼女に問う。
その声は低く、重かった。
しかし、それにも気後れする事無く、アリーは続けた。
「私はね、あなたが堕天使だって明かしてくれた事が、逆に嬉しいの。
思うんだ、私。あなたとは、もっと仲良くなれるんじゃないかって。
そうじゃなかったら、こんな風に話す事なんて、絶対にしなかった。
…ううん。それ以前に、普通のままでいたと思う。」
「……。」
彼女の言葉を聞いてから、ルエは、まるで嫌なものを見るような目で、彼女を見た。
そして、こんな事を問うた。
「…何故そう思う? 私が堕天使だという事が、珍しいからなのか?」
「そうじゃないの! 理由っていうものかは、よく分からないけど…とにかく、嬉しいの!!」
彼女はそう答えて、笑った。
その笑みはとても、眩しいものだった。
すると、
「…っ、あ……。」
ルエの目から、涙が零れ落ち、彼女はその場に泣き崩れる。
突然の出来事に驚き、慌てて、全員が駆け寄る。
「ど、どうしたの!? 何か、いけなかった?」
アリーがそう言うと、ルエは首を振って答えた。
「違う…。そうじゃ、なくて…。」
「?」
アリーが首を傾げると、彼女は途切れ途切れに、言葉を紡ぐ。
「…嬉しいんだ…。こういうの…言われた事、あまり無くて…。
…人間の頃…ほとんど、嫌われてたから…また、同じことになるんじゃないかって…でも、今は…凄く…嬉しい…。」
「…大丈夫。私達がいる。だから、もう…一人じゃないよ。」
アリーがそう言うと、キル達は、「そうそう!!」と、頷きながら言った。
その時の彼らは、まるで、ルエを優しく照らす太陽のようだった。
「……うぅっ…ありがとう…ありがとう…。」
泣きながら、感謝を述べるルエに、アリー達は優しく慰めるのだった。
第四章「一人じゃない」〜fin〜