複雑・ファジー小説

Re: 光の堕天使 次章予告更新! ( No.598 )
日時: 2013/07/31 17:41
名前: エストレア ◆rzkXXBQrso (ID: 6U1pqX0Z)

ルエとキルがそれぞれ自己紹介した後、ミストは彼らに問うた。

「それで? 何しにここに来たの?」

「こいつに、光の魔力を分けてほしいんだ。悪魔族との戦いで、大分消耗しているだろうし。」

すると、ここに来た理由を伝えたキルの言葉に、ルエが反応し、彼に問う。

「!? キルはどうするんだ!?」

「俺はいいよ。まだ残ってるし。それに……。」

そう言いかけて、キルは急に黙り込んだ。

「? キル?」

訝しげに彼女が問うと、いつもの調子に戻って、

「いや、なんでもない。」

と、言った。
ルエはよく分からず、未だ疑問符を浮かべていたが、深くは追及しなかった。

「分かった。準備をしなきゃいけないから、ちょっとここで待ってて。」

理由を聞いたミストは、二人にそう伝えると、音も立てずに消えていく。
そしてしばらく経った後、ルエの頭の中から、声をかけてきた。

『お待たせ。今から指示を出すから、よく聞いて。まず、世界樹の目の前に立つんだ。
それから、片手を木に触れて。触れる手はどっちでも構わない。』

ミストの指示通り、彼女は世界樹の目の前に立つと、左手をゆっくりと前に出し、木に触る。
それ独特の、ごつごつした感触が、手のひらに伝わってきた。

「ミスト、次はどうするんだ?」

彼女がそう尋ねると、ミストはまた、頭の中からこう言った。

『目を閉じるんだ。僕が合図を出すまで、目を開けないで。』

ルエは彼の言う通りに従うと、

「始めていいぞ。」

と、言った。
その後、ミストが呪文を詠唱し、魔力が体内に流れ込んでくる感覚が、彼女に伝わってきた。

(……彼女は、いったい……。)

ミストは詠唱の最中、そう思い始める。

(この雰囲気は、堕天使からだろうか。それとも……。)

……いや。今は何も考えない方がいい。言うのはそれからだ。
心中に持った疑問を振り払い、彼は詠唱をし続けた。

やがて、

『もう目を開けていいよ。』

ミストがそう言うと、ルエはゆっくりと目を開ける。
すると、今まで彼女を待っていたキルも反応し、駆け寄ってきた。

そして、ミストが二人の目の前に現れて、こんな事を言った。

「これで、光の魔力が増加したんだけど、ちょっと引っ掛かる事があるんだ。」

「それってなんだ……?」

キルがそう問うと、彼はルエの方に目を向けて言った。

「確か、ルエ……だっけ? 君は……不思議な子だね。」

「えっ……?」

「普通、堕天使族は堕天使界に住んでいるから、世界樹みたいな木が無い。
だから触れても、弾かれてしまう者が多いんだ。」

そこでいったん言葉を切ると、少し真面目な顔をして、ミストは続けた。

「だけど君の場合は……弾かれない。受け入れているんだ。
まるで……この森に住んでいる人みたいに。ここに来たのは、初めて?」

彼の問いに、ルエは首を振って答えた。

「いや。来た事はあるが、木には直接触れなかった。」

すると、ミストは顎に手を当てて、深く考え込む。
そして、何かをぶつぶつと呟く。

そんな彼の様子を見て、ルエは訝しげに問う。

「ミスト……?」

すると、ミストは我に返って、

「いや、なんでもないよ。気にしないで。」

と、言った。
二人はその様子を不思議に思ったが、あまり気にしなかった。

そして、彼らは互いに手を振って別れた。
その帰り道、ルエはキルにこんな事を言った。

「キル……。」

「なんだ?」

「……ありがとう。」

「……えっ?」

一瞬、彼はルエが何を言ったのか分からず、彼女の顔を見る。
しかし、その視線に気づかないのか、彼女はキルを見ずに言った。

「私は、ここが……天使界がどういう所なのか、ほとんど分からなかった。
ここで生まれて、育ってきた。けれど、実際自分が見ているのは、この世界のほんの一部だった。
だから……新しい発見をしたような気がして、少し嬉しかった。」

そこで言葉を切ると、ルエはキルの方を見て、こう言った。

「ありがとう、キル! 私を連れて行ってくれて!!」

そして、にこりと笑った。
その笑顔に、彼は少し顔を赤らめるが、やがて微笑んで言った。

「どういたしまして。」