複雑・ファジー小説

Re: 光の堕天使 次章予告更新! ( No.602 )
日時: 2013/07/24 22:15
名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: 6U1pqX0Z)


【返信555突破、参照6000突破記念】

SS 『生と死を見つめて』

生きることと死ぬことは、紙一重だと思う。

何故かは分からない。
ただ、私がそう感じただけであって、それが正しいとは限らないのだろうが。

生きるとは、感覚を感じる事。感情を表現する事。
死ぬとは、魂の解放。別離。運命。

恐らく、今あげたこれらが真実とは思わないが、私は知りたいのだ。


——生死を見つめた先にある、何かを。——


「……い。おい!」

「!」

突然聞こえた声に、私は深い思考から現実に戻された。
声のした方に目を向けると、友人が私の顔をじっと見ていた。

「……どないしたん?」

私が問うと、彼女は不思議そうな顔をして、こんな事を言った。

「あ、いや……。
お前が考えるのが珍しかったから、どうしたのかと思って、呼んだんだが……なかなか返事しなくて……。」

「ちょっと待てい。
それは、私が普段考える事をしないという意味と受け取ってええよな?」

「別にそうとは言ってないぞ!?」

友人は吃驚して、目を瞬かせた。
ため息をついてから、私は彼女に問うた。

「で、なんや?」

「……その……。お前はいったい、何を考えていたんだ……?」

「……一つ、質問してええか?」

「? 別に構わないが……。」

友人の許可を得たので、私は質問する事にした。

「あのさ……。生きると死ぬって、どういう事なん?」

すると、友人は急に立ち止まり、驚愕の表情で、私を見た。

「……なんや? なんで止まるん?」

「いや、その質問に驚いたからだろう!?」

なんでやねん、と言いたいところを寸前で飲み込んで、「……そんなに驚く?」と返す。
それに彼女は頷いて、こんな事を問うてきた。

「何故、急にそのような質問をしたんだ? 何かあったのか?」

それから、私の顔をじっと見た。
混じりけのない黒の左目と、傷跡と黒い羽の模様がある、赤の右目が、私を映しているのが分かる。

耐えられなくなって、思わず視線を逸らす。

私は、誰かと目を合わせて話すのが苦手だ。
だから、視線は必ず、正面じゃないどこかを向いている。

こうやって話をしている時もそうだ。
見つめられていると、私の全てを見られている気がして、ならないのだ。

「…………。」

そして、そうされる事で、その全てを否定される気がして。

多分私は、その事に恐怖を抱いているのだろう。
自分は既に、認めているにも関わらず。

(私は、自分自身を見る事も出来ない、臆病者やな……。)

そう物思いに耽っていた。
その時、

「ちゃんとこっちを向け。」

友人にそう言われ、無理矢理、顔を彼女の方に向けられる。

「……ごめん。」

素っ気無く返して、顔を挟んでいる手を振り払い、歩を進める。
それから思った。

心配かけさせたな、と。

「!? ち、ちょっと待ってくれ!!」

そんな私に、友人は後から続く。
そして、隣でしばらく歩いてから、口を開いた。

「それで、どうなんだ? きっかけみたいなのは、あるのか?」

「……私って、高校生やんか。」

「あぁ。」

「だんだん大人に近づいてくると、いつしかそう考えんのよね。
生きると死ぬって、どういう事なんやろって。」

「でもだからって、何故私に聞くんだ? 他の人に聞いてもいいはずだぞ?」

「だってあんた……。」

元人間なんやろ、と言おうとして、止める。

Re: 光の堕天使 次章予告更新! ( No.603 )
日時: 2013/08/23 14:57
名前: エストレア ◆rzkXXBQrso (ID: 6U1pqX0Z)

……そうだった。
今、目の前にいる人物は、元々人間だったのだ。

もしかしたら、辛い記憶を思い出させてしまうかもしれない。

私にはあまり分からないが、そのような人生を歩んできたのだろう。
孤独と、深い傷を背負ってきた者の、運命として……。

だから、人の心の痛みが分かるのだと思う。

だけど、辛そうな顔を見せないのは何故だろう。
なんで私に、「辛い。」と言わないのだろう。

(まさか、過去のせいで……。)

可能性は高い。
心の傷が深いのは、その為だろう。

「……そういう事か。なるほどな。」

私の考えていた事を知ったのか、友人がぽつりと呟く。
そして、顔を私の方に向けて言った。

「分かった。質問に答えよう。」

「ホンマに!? ……あ、でも……。」

「? どうした?」

不思議そうに問うてきた友人に、私は返す。

「……嫌、じゃない?」

「え?」

「……辛い記憶を、思い出してしまうから、この質問に答えるのが嫌やって……そう、思ったんやけど。」

すると、少し顔を背けて、彼女は言った。

「大丈夫だ。もう、それには慣れているからな。」

そう言った時の友人の顔は、どこか寂しそうに見えた。

「……さて、生きると死ぬはどういう事か、だったな。
まずは死について、私の考えを述べよう。」

「死についての考え……あんたはどう思うん?」

ゆっくりと歩きながら、彼女は自分の思考に浸る。
そして、公園まで歩いた時、少し顔を上げて言った。

「……無、だな。」

「無……?」

ほら、夜に眠ったら、いつの間にか朝になる時があるだろ、と前置きして、友人は話し始めた。

「あれと同じなんだ。何も聞こえない、何も見えない。
ましてや、自分の体が、誰かに触れられているという感覚すらもない。だから、無なんだ。」

「じゃあ、生きる事は?」

しかし、返ってきたのは、私が想像していた以上の言葉だった。

「……分からない。」

「分からない……。」

同じ言葉を復唱する。恐らく、それは本当だろう。
すると、あくまで私の考えだが、と言って、友人は話す。

「たぶん……人それぞれだと思う。生きるのはどういう事なのか、答えは様々だ。
しかし、本当の答えは……自分が一番知っているんじゃないのか?」

本当の答えは、自分が一番知っている……。
その言葉が、妙に心に残った。

私の家の前で、友人と別れる。
彼女の姿を、見えなくなるまで見送った後、私は呟いた。

「……なんとなくやけど、あんたの言った事、分かった気がする。ありがとう。」

空には、多くの星が瞬いていた。