複雑・ファジー小説

Re: 君がくれたもの ( No.1 )
日時: 2011/07/15 21:25
名前: 赤音 ◆WuiwlRRul. (ID: RjGXEztJ)


 まだ人の少ない早朝とはいえども真夏のコンクリートはさすがに熱を帯びている。
 昨日の雨水がまだ残っていたらしく屋根からは水が滴りベンチに落ちてしみを作っていた。

 そして俺はそんな駅のホームにいたんだ。


「翼っ!!」


そう、いたんだ。


1.

 目を開けると、見慣れぬ真っ白な天井があった。見回すと天井と同じ色のカーテン、壁。そして俺は見知らぬベッドで寝ている。


「……?」


何があったかよく思い出せない。


 俺は確かにあの駅のホームにいたはずだ。
あの場所で雄也を待っていて、名前を呼ばれて、突き飛ばされて、

 それから?

 ああ、そうか。
 確か突き落とされて、電車が来て、目を瞑って、それで俺は。


 「生きてる……?」

 
 生きている?
 電車に轢かれておきながら生きているのか?

 全く、嫌なほど丈夫な体だ。
 そう言えば生まれてきて17年死にそうな目にはあっても致命傷に至ったことは一度もない。

 
 ドアの外からは看護師の話し声が聞こえる。
 最近の若い女はやっぱりキャピキャピしたヤツばっかなんだろうか。
 そんなことを思う俺はきっといまどきのギャル男とかいうヤツとは正反対だ。真面目ぶったヤツも嫌いなのだが。
 とにかくそんな話を聞きながら、俺はこれからのことに目を向けようとした。現実逃避は嫌いだ。先延ばししているにすぎない。

 これからどうすれば良いのだろうか。
 自分で見た限りでは骨が折れているし打撲もひどい。このまま部活に復帰するのは無理だ。
 スポーツ推薦を受けようと思っていたのに(大学にスポーツ推薦があるかどうかなんて知らない。きっとないだろうな、と今頃思った)こんなのじゃあんまりだ。
 
 このままじゃ生きていけないと脳細胞が告げた。このまま死ねと言うつもりなのだろうか。


「……ああ」


 それも良いかもしれない。どうせ死ぬはずだった体だ。

 俺は近くにあった松葉杖を自分のほうへ引っぱりベッドから降りた。
痛い、でもそんなことはもうどうでも良い。
 無理やり歩き出しドアを開ける。いつの間にか看護師たちはいなくなっていた。
 いつの間にかたどり着いたエレベーターに乗り最上階のボタンを押す。

運命は既に目の前に迫っていた。






to be continued…