複雑・ファジー小説

Re: 血染めの彼岸花【月夜に降り立つ処刑人】 ( No.18 )
日時: 2011/07/13 09:03
名前: 王翔 (ID: jHcC18eG)

第十二話


「実は、俺……医者見習いなんだ」
「え……?」
沙零は、目をぱちくりさせた。
「俺の家は、病院なんだけど……そこで、暴走した吸血鬼を元に戻す薬の開発が一応は行われてるんだ。でも…全く進んでなくてね………資料が足りないのか、材料も決まらない状態でさ、完成には程遠いよ」
「そう、なんですか……」
確かに、そんな薬があればもう吸血鬼を処刑する必要はなくなる。それが実現すればいいんだろうが、そう簡単にはいかないらしい。
「あ」
「どうした?」
「吸血鬼は、月光を浴びた彼岸花を見ると暴走するんですよね?」
「ああ、そうだけど」
「じゃあ、彼岸花を刈ればいいんじゃ」
「それは無理。当然、みんな試したよ。でも、彼岸花はいくら刈ってもなくならない。それはもう、呪われてるんじゃないかってぐらい………
すぐに新しいのが咲くんだ。実際、呪われてるんだろうな」
雷手は、苦笑いする。
「そうですか……」
沙零は、シュンとしてお茶をすすった。
「まあ、きっと完成するさ。俺だって必死に勉強するし」
和菓子を器用に切りながら雷手は呟く。
実現するといいな。
「結局、まだ処刑しないといけないから……何だか、やっぱり処刑する役割の子って可哀想だよな。だって、他のみんなみたいに、友達と楽しく遊ぶことだってできないんだ」
「……」
ふと、脳裏にさざめの姿が浮かぶ。
いつも、誰とも話さず一人でいる。
「罪悪感ってやつかな。殺した相手を思えば、自分が生きて普通に楽しくやってるなんてあり得ないってやつ」
雷手の瞳に暗い影がさしたような気がした。
「……」
明日、神谷神社に行ってみよう。